びっくりマーク六つ

昨日大判の美麗な冊子が戸嶋靖昌記念館の安倍三崎さんから送られてきた。戸嶋さんの「ロペスの像」の絵が表紙を飾り、上部に小さくスペイン語と日本語でタイトル「日本人画家・戸嶋靖昌によるウナムーノへのオマージュ」、そして下段に「いま、ウナムーノを問う」と書かれている。81ページに及ぶ内容はウナムーノと戸嶋靖昌に関するたくさんの図版、それらを補完する両者の数々の言葉、そして最後に「特別インタビュー×執行草舟」が締めくくる。すべてスペイン語・日本語併記である。巻末を見ると「図録企画・編集・デザイン 主席学芸員 安倍三﨑」とあり、見事な出来栄えである。圧倒され、そして感動した。
 さっそく安倍さんにこうメールした。

「資料届きました。驚きました。素晴らしい。今回の企画の全体像が見事に現出しました。何よりもその全体像の企画者、遂行者、実行者の執行草舟さんの情熱に打たれました。そしてその有能な助手・安倍三崎さんにも絶大なる拍手そしてお祝いをお伝えします。
 二つの国の文化の間にこのように見事な、そして真実の交流がなされるのは実に画期的です。天国の戸嶋靖昌さんもきっと大喜びしていることでしょう。
 どうかこの佐々木の心からなる賛同と称賛、そして尊敬の念を執行さんに伝えてください。」

 それに対して安倍さんから即座にこう返ってきた。

「佐々木孝先生の名訳があってこその、全体の企画です。社長が佐々木先生によってウナムーノを知り、ウナムーノと交流し、最終的には情熱の哲学を後世に伝えたいという大きな気持ちへと拡大していかれた起源は、佐々木孝先生なんです!!!!!!」

 びっくりマーク六つ。私への過大な評価の言葉を彼女の許しも得ずにここにご披露したのは、物言わぬ愛妻とひっそりと暮らすこの満身創痍の(皮膚炎で)落魄の老サムライのせめてもの矜持と許してたもれ。

 言い忘れたがこのカタログは今年五月十七日(木)から六月十五日(金)まで、スペインはサラマンカ大学の「日西文化センター」で、皇后美智子妃殿下の名を冠したホールで開催される展覧会用に作成された図録である。定価500円(税込み)となっているから、ご所望の方は戸嶋靖昌記念館に問い合わせてみて下さい。

戸嶋靖昌記念館 執行草舟コレクション http://www.shigyo-sosyu.jp/

 なお同企画の日本での開催は、駐日スペイン大使館を会場として本年九月十一日(火)から十月九日(火)までとなっている。残念ながら私は行けませんが、皆さんぜひ会場に御足を運ばれんことを。

※ 追記 その一つ前のメールで安倍さんからこんなニュースも届いていた。それは日大の角田哲康教授が『情熱の哲学』を哲学の授業の教科書に指定され、何十人もの学生さんと一緒に情熱の哲学を学ぶのです!と意気込んでいらっしゃる、との知らせである。若者たちの中からウナムニスタが誕生することを強く願っている私にとってこれ以上の朗報はない。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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びっくりマーク六つ への4件のフィードバック

  1. 佐々木あずさ のコメント:

    佐々木先生の魂がウナムーノを呼び起こしているのですね。最近のマイブームは、ウナムーノ。友人たちも興味津々。やっぱり先生の訳文なしにはありえない現象です。薄っぺらい言葉が電波から流れる日本の今だからこそ、ウナムーノの情熱の哲学に引き寄せられるのではないでしょうか。

    昨日、十勝坊主(ご存知ですか?)の学習会に行ってきました。なんと、主催代表挨拶は、先生の従兄弟のはげ庵ドクター。おもしろい学びでした。冬のシバレは記憶にあるかと思います。そのシバレが、地球上に面白いいたずら(私の解釈)をするのですね。それを、もう立派な大人たちが、楽しそうにやいのやいのと話すのも、なんとも面白い光景でした(笑)。

    そのはげ庵ドクターが声をかけてくださいました。話題は、大好きだった千代ばっぱさまと大の仲良しの従弟のこと。ターちゃん?タカチャン?先生は、そう呼ばれていたのでしょうか。高校時代、1年間、千代おばさまのお宅にお世話になったこと、3年前におじさまを連れて走ったことなど、懐かしそうに話してくださいました。そのおじさま、ケンジさんですね。なんだか、親せきの一人になったような感覚を覚えます。そのくらい、佐々木孝ファミリー、一族が身近になりつつあります。

    十勝は2か前に開花宣言。そして今日は、どこも満開。昨年、南相馬を訪ねた時も満開でした。懐かしく思いだします。

    美子奥さまによろしくお伝えくださいませ。佐々木あずさ拝

  2. アバター画像 fuji-teivo のコメント:

    佐々木あずささん
     十勝石(黒曜石)のことは知ってましたが、帯広生まれなのに恥ずかしながら十勝坊主は知りませんでした。さっそくネットで調べたら、こんな説明が出ていました。

    「これは永久凍土層上部の土壌(火山灰土)が凍結と融解を繰り返すうちに、こぶ状に盛り上がった形となったもので、周氷河地形*の一つです。その内部や表面に火山灰を含んでおり、その年代から1,000年~3,000年前の寒冷期に形成されたと考えられています。大雪山や羊蹄山にも同種の構造土が見られますが、低地での分布は珍しいものです。また欧米でも同様な地形が見られ、アースハンモック(芝塚)と呼ばれています。」
     なるほど。
     ところで今でも親戚の人は私のことを「たーちゃん」と呼びます。大江健三郎さんの「大江」は中国語でターチャンと(少し尻上がりに)発音するので、彼のいい読者ではありませんが、なぜか彼に不思議な親しみを感じています。

  3. 佐々木あずさ のコメント:

    佐々木孝先生
    先生の説明の通りです。ナキウサギは氷河期から生きながらえている主だといわれていますが、彼女、彼らが暮らす風穴(ふうけつ)も氷河の名残。ただの土の塊ではない十勝坊主。昨今の気温の変化で成長も遅くなっているようです・・・。その成長を守るためには、暮らし方を考えなおさなくてはなりませんね。

    今朝、見知らぬ年配の方から電話が来ました。「友人と一緒に、(寄りあい処呑空庵の)沖縄映画上映会に行くからね。よろしくね」とのことでした。脳こうそくの後遺症のため、「ちょっと酔っ払いみたく歩いたり、しゃべったりするけど心配しないで」と教えてくださいました。ありがたいお客様です。というわけで、呑空庵@とかちで、呑空庵本家の紹介チラシも増刷してきます。

  4. 阿部修義 のコメント:

     『情熱の哲学』を常に机上に置いて、悪戦苦闘しております。この本の中で、私が考え続けている言葉があります。

     「彼ら(先行世代の進歩主義、伝統主義者たち)はすでにできあがった伝統なり、進歩(大文字の進歩、つまり進歩の理念)が大事であって、<永遠なるものの常に成りつつある(in fieri)調和>に気がつかない。しかし次代のウナムーノたちは進歩、伝統の底にあって不動のもの、むしろそれらを内面から超越する永遠の伝統に視線を向けるのである。」

     先日、先生が言われていた「平和菌増殖のための三つの要諦」の内容とこの文章は密接な関係にあり、『モノディアロゴス』の根幹にある思想に通じるのではないかと私は感じます。これからも、この本を少しづつ、急がず、焦らず、時間をかけて読み込んでいきます。今秋開催される在日スペイン大使館での戸嶋画家によるウナムーノへのオマージュは是非観に行こうと思っております。その絵の中にウナムーノが読者に語りかけたかった何かを発見できるかも知れません。

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