吉本隆明と老い

  1月4日の教育テレビETV特集で「吉本隆明語る」が放映された。12月14日には同じ番組で「加藤周一 1968年を語る」があったから、このところ立て続けに二人の“巨人”が語ったことになる。もちろん吉本氏は、足腰がかなり不自由ではあるがご健在である。加藤氏の場合は、自宅での収録だったが、吉本氏のお話は、どこかの公会堂で沢山の聴衆を前にしての講演という違いはあるが、ともに高齢なのにそのエネルギーにまず驚かされた。ちなみに加藤氏享年89歳、そして吉本氏は現在85歳。

 二つとも録画はしたのだがまだきちんとは見ていない。二人ともさすがに呂律の回りが遅くなってはいるが、しかし言葉や表現そのものは明確であり、文章化したら、論旨もしっかりしているのではないか(その辺はまだきちんと見てはいないのでなんとも言えないが。)

 いや、今晩彼らのことに触れたのは、彼らの思想を語るためではない。極めて個人的というか、思想とは少なくとも直接的には関係のない「老い」について話すためである。いやもっと限定すれば、足腰の衰え、さらに局部化すれば、膝関節の衰えについてである。加藤氏の場合は、老人特有の歩き方、つまり前屈みで膝があまり上がらぬ歩き方になっていたが、吉本氏の場合、講演会では演壇まで車椅子で登場したように、歩くこと自体たいへん不自由そうだ。

 そんな話になっていくのは、実は私自身ここ数日のあいだに、急に階段の昇り降り、特に昇りの際に、膝関節に痛みを感じるようになったからである。この急激な変化に我ながら驚いているし、ロウバイしている。それで急いでネットの薬屋さんに「低分子ヒアルロン酸」という錠剤を注文し、一昨日から飲みはじめたのだ。まだ効果は出ていない。

 今日も便所で妻の用便を手伝ってしゃがみこんだはいいが、いざ立とうとして左足の膝の筋肉が妙な具合につってしまい立てなくなった。もちろん一瞬後に痛みをこらえてゆっくり立ち上がることはできたのだが、ちょっとショックだった。そのあとも痛さなどなく、歩行も普段どおりにできるのだが、これを機に本気で足腰を鍛えなければなるまい、と思っている。

 ところで彼ら“巨人”は老いをどう考えていたのか気になってきた。「加藤周一 老い」で検索すると、どこかの誰かが、「加藤老師には、サルトルやボーヴォワールがそうしたように、老いについて、死についても語って欲しかった、とおもうこともあるが」と書いていた。そうか、彼の著作集をときおりぱらぱらとめくることがあるが、そう言えば「老い」については語っていないのかも知れない。うん、その態度潔くて結構。

 それでは吉本氏は?書いていた書いていた。平成14年に『老いの流儀』(日本放送出版協会)、そして平成18年には『老いの超え方』(朝日新聞社)と2冊も。うーん、この姿勢もいいじゃない? どちらかと言うと、この点に関しては私、吉本派。世界状勢は、日本の将来は、と難しい論議も大事だが、膝関節の痛みとか尿漏れとか、そんな瑣末な、惨めな現実も大事な問題です。ネットの古本屋に2冊とも注文しようとしたが、老いについてそこまで本気出さなくても、と思い直し、『老いの超え方』だけにする。

 番組の最後、講演のあと訪れた糸井重里にまた熱く語り終って応接間から手すりを伝いながら腰を曲げて自室に戻っていく吉本氏の後ろ姿もいいが、すれ違いにこちらに向かって音もなくしなやかに歩いてくる白いニャンコちゃんのショットも実にいい(昨年死んだミルクにそっくり!)。腰曲がり万歳!膝関節の痛み、どこかに飛んで行け!

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佐々木 孝

佐々木 孝 について

佐々木孝(ささき・たかし) 1939年北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。1962年同学科卒業。5年間の修練生活の後、1967年イエズス会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授、1982年教授となる。1984年常葉学園大学でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、東京外国語大学、駒沢大学、法政大学、早稲田大学などでも非常勤講師を務める。2002年定年を前に退職、病身の妻を伴って父祖の地・相馬(福島県南相馬市)に転居。以後16年にわたり「モノディアロゴス(Monodiálogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」と題したブログを死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。2018年12月20日、小細胞肺がんのため宮城県立がんセンターにて死去(享年79)。
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