耳寄りな話

 年相応というより歳以上に難聴の度が進んで、日常的にも補聴器に頼らなくてはならなくなった。特に右耳はほとんど用をなさない。いつごろからかさえすでに忘れてしまったが、アマゾンの購入記録を見てみると、初めて補聴器を買ったのが2年8か月前となっている。しかしその補聴器(ニコン製)は数か月前に突然機能しなくなった。1万9千円もしたのに。それで間に合わせにずっと安い集音器というやつを買ってみたのだが、音楽はもちろんのこと人の話声もクリアに聞くのは無理である。つまり人の話し声がすべて「たけし並み」にごもごも聞こえるのだ。

 仕方がない、補聴器を修理に出そうと問い合わせてみると、1年の保証期間が過ぎているので、検査に2週間ほどかかる上に修理代が8,9千円かかるそうだ。直してもらってもまたいつ壊れるかも分からぬのに8千円は痛い。それで改めてアマゾンで調べてみると「補聴器 集音器  拡聴器 イヤホン 耳穴電池式 快音くん イヤーピース3付き 雑音抑え 販売: wwhjy ¥ 5,366 」といやに欲張ったやつがあった。

 修理代がそんなに高額なら、ものは試し、先ずこれを試してみてからにしよう、と注文した。数日前、製造先の中国から届いた紙包みを開けてみると、なんと電池式ではなく充電式、しかも耳穴式ではなく耳掛け式ではないか。いかにも中国らしく雑な仕事ぶり。しかし送り返すのも面倒と、とにかく使ってみることにした。

 これが大正解! つまりニコン製の補聴器と同程度に鮮明に聞こえ、しかも音量調節以外に高低2段階の調音ができ、さらに充電式で安上がり。あまりにも意外な結果なので、ついニコン製の販売店に皮肉の一つでも言いたくなって(ヒマっすなー)、納得いく説明がないならアマゾンのカストマーレビューに投書するとの脅しを入れて連絡したところ、すぐに業界裏話的な情報が手に入った。参考までにその一部をご紹介する。

「佐々木 孝様 ご利用ありがとうございます。
恐縮ですが、補聴器自体は簡単な構造です。マイクと増幅器であるアンプ、そしてスピーカーで成り立っております
(以下省略)
 今回他社からご購入のタイプは補聴器でしょうか、集音器でしょうか。補聴器は厚生省の検査基準をクリアした医療機器となります。ただ、厚生省基準対応の検査費用が多額であることから、海外品や国産でも集音器として販売されている商品も多くあります。(以下省略)
 通常は耳鼻科で診療いただき難聴と判断された場合、通常15-30万円ほどの補聴器を薦められますが、ご自分の耳の性格に合った機種を選択いただければよろしいかと思います。難聴は治る病気ではなく、老眼などと同様一生お付き合いいただく病でもあります。ご自愛のほど、宜しくお願い致します。
 この度はお力になれなく大変申し訳ございません。 店長 M   」

 もちろんこれだけ丁寧な回答なのでアマゾンにチクることはやめた。ただおかげで業界内の話と思われる情報が手に入った。つまり補聴器と集音器の専門的な違いは分からないが、今回の中国製のようにほとんど補聴器水準に近い機能を持っていても厚生省基準をクリアするのが面倒、というか多額の費用を要するので、ほとんど集音器に近い値段で売り出しているものがある、ということである。

 そういえば今回購入したものが補聴器と集音器、さらに拡張器などと曖昧な表示をしていたことの理由も分かった。つまり補聴器とだけ書くと日本の厚生省に睨まれるからではないか。

 私は耳鼻科に行きもしなかったが、もし行っていたら数十万もする補聴器を薦められていたかも知れない。しかし今回手に入れたものでも分かるように軽度から中程度の難聴者にとって、なんとも曖昧表示の中国製のものでも充分間に合うということだけは断言(?)できる。

 ともかく日本はすべてにわたって規制が厳しく、それが健康被害の可能性のあるような食品などについてなら消費者にとってありがたい制度だが、しかし補聴器のようなものにやたら規制を厳しくすると、特に情報の少ないご老人にとっては必ずしもありがたい制度ではないということだ。時には今回のように注文したものより機能の優れた機器が間違って配送される中国式いい加減さ、鷹揚さなどの方がむしろありがたいのである。

 以上耳寄りな話でした。

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佐々木 孝 について

佐々木孝(ささき・たかし) 1939年北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。1962年同学科卒業。5年間の修練生活の後、1967年イエズス会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授、1982年教授となる。1984年常葉学園大学でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、東京外国語大学、駒沢大学、法政大学、早稲田大学などでも非常勤講師を務める。2002年定年を前に退職、病身の妻を伴って父祖の地・相馬(福島県南相馬市)に転居。以後16年にわたり「モノディアロゴス(Monodiálogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」と題したブログを死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。2018年12月20日、小細胞肺がんのため宮城県立がんセンターにて死去(享年79)。
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4 Responses to 耳寄りな話

  1. 佐々木あずさ のコメント:

    「耳寄りな話」。また薀蓄、含蓄、情報満載、胸いっぱい!面白く、そして役に立ちました。先生の戦法に学び、「泣き寝入りをしない」「七転び八起き」をモットーに、先生の後に続きます!

  2. 阿部修義 のコメント:

     突発性難聴で一昨年の暮れ入院したことを去年の先生への年賀状に書いたことを思い出しました。朝起きたら右耳が聞こえないので町医者に行って診てもらったら、その場で簡易的な聴力の検査を受け、大学病院のような大きな所へ早く行くようにと紹介状を書いてもらって行きましたらその場で入院になり、母のことがあるので困ってしまいました。後から主治医から聞いた話では、突発性難聴ははっきりした原因がわかっていない難病で、難聴になってから一か月以内に治療を開始しないと聴力がもどらないような話を聞いたことを覚えています。治療は点滴注入と飲み薬で徐々に点滴の量を減らしていく方法で、どういう成分の入ったものかは忘れましたが、とびきり痛い点滴でした。看護師さんの話では点滴に使う成分によって痛いのとあまり痛みを感じないものがあるようです。二週間の予定で入院したんですが、幸い一週間程度で聴力がもどり退院できました。青天の霹靂とはまさにこのことで、生きているといろいろあるんだなと思いました。先生も難聴とはその当時の賀状に書かれてあって知っていましたが、文章を拝読して改めてお大事になさってください。

  3. 立野正裕 のコメント:

    佐々木先生

    なにはともあれ補聴器がはたらいてくれるのはさいわいなことでした。
    じつは、あの日以来ずっと心配しておりましたから。
    うかがったところ、聴覚器官のご不自由を執行さんも少年時代から経験されておられるそうです。それでもあの音楽への造詣の深さにはまったく脱帽のほかありませんが。
    阿部さんも、突発性難聴で入院までされたとお書きです。「青天の霹靂とはまさにこのこと」と身をもって経験されたわけですね。
    わたしのような者にとっても、けっして他人事ではありません。
    しかも、「青天の霹靂」の個人への割り当て量があらかじめ決まっているわけではないことも、人生の制御しがたい不条理ないし理不尽の一部であると、ときに思い知らされることがあるのです。

    それにもかかわらず、先日、先生からじかに先生ご自身のこととして、日々の生きがいと生きることの意味をめぐってお話を伺うことができたことは、日ごろややもすれば生きることの不安ないし恐怖にとらわれがちの自分にとっては、深い反省と沈思をうながされずにはいないものでした。

  4. 守口 毅 のコメント:

    阿部さんのコメントを読ませていただき、びっくり。私は昨年春ですが、同じ右耳が突発性難聴に襲われ、眩暈と難聴に半年苦しみました。10日間の入院とステロイド注入で緩やかに回復に向かい、右が7割聴力を取り戻し、「これ以上は戻りません。この耳と付き合いながらやっていってください」と医者から言われ、今に至っています。幸い歌うことも楽器を弾くことも支障なくできるまでなりました。でも右7割・左10割の不均衡は音源の探知には問題が生じます。そこに今回の佐々木兄いの補聴器のお勧めです。何とありがたいお話でしょう。善は急げ!早速に買い求め、昨日到着しました。兄い殿。これいいですね。左右均衡を獲得できた気がしております。音源に無理に左耳を差し向けなくてもよくなりそうです。助かります。ハイ!
    本当に有難うございました。 

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