戦時体験記を読む日々

 本日送られてきた「カトリック新聞」8月27日号に私の投稿記事が載ってました。内容はいつもの持論だし、いずれ上のメディア掲載履歴に収録してもらいますが、ひとまず皆さんにもここで読んでいただこうと発表されたものと全く同じ原稿をコピーすることにしました。なおタイトルは編集者につけてもらいました。

「このところ上下二冊、合わせて千百ページにもなる本を毎日少しずつ、しかもアトランダムに開いたページを読むのを日課にしている。一気に読まないのは内容自体が四千二百通もの読者からの投稿だから、つまり一篇一篇が飛ばし読みできない重い内容だからである。本の名は『戦争ー血と涙で綴った証言』(朝日新聞テーマ講話室編)、出版年は一九八七年、ちょうど三十年前の古本である。

 読んだ形跡がないのは恥ずかしいが、しかし私にとっては今がまさに読み時だったのだと思いなおして真剣に読んでいる。現今の実に愚かなドタバタ政治への危機感からだけではなく、もう少しで七十八歳になるというわが身を顧みての或る種の義務感からである。つまり国政を司る現在の総理が昭和二十九年生まれ、戦争の悲惨さなど全く知らずに高度成長期に人間形成を果たした世代で、道理で戦争と平和に対して実に危うい舵取り(むしろ火遊び)をしていると最近特に感じているからだ。

 と言ってもちろん私に実戦の経験があるわけではないし、本土での空襲や沖縄での地上戦に遭遇したわけでもなく、少年時、旧満州からの引き揚げの途次、夕焼け空を背景に鉄路にへたり込んだ敗残兵の一群を見た、つまり戦争の尻尾を見ただけではあるが、しかし子供心にも戦争の愚かしさ悲しさをしっかり胸に叩き込んだ世代である。前述の本の中にもそのころの回想記が何篇か含まれているが、中に「真っ先に逃げたのが高級将校たち、次に軍隊や警察などの組織体であって、守護されるべき開拓民は置き去りにされ逃げ遅れた」とあるように、平時いかに美辞麗句を並べられようと国は国民を守ってはくれないことを骨身に沁みて味わった世代である。

 しかしいつしか八月六日・九日の原爆投下記念日も十五日の終戦記念日も、その時だけのおざなりの回顧で過ごしてきたと白状せざるを得ない。八月のカレンダーに十一日の「山の日」が旗日になっているのに、十五日には何の記載もないことに気付いて今更のように驚いているうっかり人間に成り下がってしまった。

 戦時体験記を読むことを日課にしたのは最近のことであるが、しかし一月十五日の本欄に書いた例の「平和菌の歌」という布表紙の豆本は一日も欠かさず作り続け、いろんな人に配って来た。いま現在他の二つの歌と一緒の日本語バージョンは累計二千冊、「平和菌の歌」だけのスペイン語バージョンも三百を超えた。もちろん「平和菌の歌」の4番に「原爆・原発被った今も 懲りずに推進求めるアホは…」とあるように、原発事故を被災した私にとって原爆と原発は全く同根のもの、前世紀最大の狂気と愚かさの産物である。その歌のリフレインは「ケセランパサラン」だが、これは十六世紀にスペイン人伴天連(神父)が伝えたとされる謎の言葉であると同時に、綿毛に似た不思議な生物を意味する。私はそれを世界中の人々の心に棲みつきますようにとの願いを込めて「平和菌」と名付けた。」

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佐々木 孝 について

佐々木孝(ささき・たかし) 1939年北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。1962年同学科卒業。5年間の修練生活の後、1967年イエズス会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授、1982年教授となる。1984年常葉学園大学でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、東京外国語大学、駒沢大学、法政大学、早稲田大学などでも非常勤講師を務める。2002年定年を前に退職、病身の妻を伴って父祖の地・相馬(福島県南相馬市)に転居。以後16年にわたり「モノディアロゴス(Monodiálogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」と題したブログを死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。2018年12月20日、小細胞肺がんのため宮城県立がんセンターにて死去(享年79)。
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1 Response to 戦時体験記を読む日々

  1. 佐々木あずさ のコメント:

    カトリック新聞拝読。実は、昨日、息子さんから送られてきていました。先生の原体験と「戦後」72年の愚かしい日本政府、日本国民の実態をよくぞ語ってくださいました!フェイスブックでシェアさせていただきますね。

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