昨夜、中国済南市でサッカー日本代表がアジアカップ準決勝をバーレーン相手に戦い、みごと競り勝った。小高浮舟でのスペイン語講座のためテレビ観戦は諦めていたが、念のため帰宅してテレビを点けてみたら、ちょうど延長戦が開始するところで、最後の三〇分を始めから最後まで見ることができた。
ところで今回の済南市、前回、前々回の重慶市でも、中国人観客が反日色を露骨に示して、たった百人にも満たない日本人サポーター以外、会場全体が対戦相手を応援する究極のアウェー状態だったらしい。試合の途中ならともかく、国歌演奏のときのブーイングは許せないと、流石のジーコ監督もメディアを通じて抗議したそうだが、選手や日本人役員などが表立って抗議をしなかったという。大変結構であり、賢明な対応だと安堵している。
重慶、済南ともにそうだが、かつて日本軍によって甚大な被害を蒙った地方である。そんな昔のこと、俺知らんよ、と思う選手や若い人たちがいるかも知れない。そこには中国政府さえ抑え切れない偏狭なナショナリズムの台頭があるのかも知れない。
しかし数日前、影書房の松本昌次氏からいただいた『戦後文学と編集者』(一葉社) を読んでいるうち、氏の武田泰淳追悼の文章に激しい衝撃を受けた後であったから、いろいろ考えさせられた。武田作品はほとんど読んできたつもりだったが、そこに引用されている二〇枚ほどの小品は読んでいなかったのである。「『汝の母を!』は、日本軍兵士たちが、密偵として捕らえた中国人の母と息子に性行為をやらせて見物し、あげくに彼等を焼き殺す小説」である。表題は「他媽的!」「ツオ・ニ・マア!」といって、「汝の母を性的に犯してやるぞ!」という最大級の侮辱的言辞である。
そんな過去の傷を癒されないまま、いままた馬鹿な日本人指導者が性懲りも無く戦犯の祀られているヤスクニを参拝する。もし私自身が重慶・済南市民だったら、ブーイングどころでなかったかも知れない。中国人民の深い傷が癒されるまで、われわれとしては、心からなる謝罪の気持ちを持ちながら、しかもいつの日か友人として認めてもらえる日を謙虚に待つのは当然ではなかろうか。
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