糸の玉

 数年前から縫い物も私がやるようになった。もちろん服を作るわけでもなく、ちょっとしたほころびを繕ったり、ボタン付け、裾あげくらいだから、たいていの用は足りている。ただ今まで、できれば覚えたいのだが、どうしてもできないことが一つあった。つまり縫い終わった後の玉止めのやり方である。

 せっかく縫い上げても、最後の玉止めがうまくできないので、ふつうの玉結びにする。でも最後の縫い目と玉のあいだが開いてしまう。

 このあいだテレビのドラマで(どんなドラマだったか、きれいに忘れている)、お母さん役の女優がまさにその動作をしていたので、しっかり見届けた(つもりだった)。いままで何度もその動作は見てきたはずなのに、それと意識して見てなかったわけだ。見終わってから、糸に針を通して、その針を一度布を通らせ、それを最後の縫い目に見立てて、実験してみた。しかしうまくいかない。どうすれば玉結びと同じ結果になるのか、頭の中で反芻してみるのだが、どうも分らない。

 そこで困ったときのグーグル検索頼みで、「糸の玉」を検索してようやく分かった。つまりこんなやり取りが載っていたのだ。

 「最後の玉止めはどうやるんですか?針にぐるぐるって糸を巻いて上に引っこ抜くと思ってたけど」と誰かが質問し、それに対してどこかの誰かがこう説明している。「言葉で説明するのは少し難しいのですが、糸の玉止めしたい位置に針を交差させるかたちであてがう →針に3、4周巻き付ける →針を縫う時と同じように抜き取る →玉止め完成!て感じです。もちろん普通に玉結びしても出来ますけどね。」

 これに簡単な図が添えられていたけれど、説明文だけで簡単に理解できた。いやー、検索って便利っすなー。ほとんどなんでも載ってるみたいです。続けて見ていくと、とんでもないものにぶつかった。つまり大学生のレポートか卒論のテーマになっていたのだ。

 「  平成17年度 大阪学院大学 情報学部情報学科
創造的問題解決の技法
~「裁縫で短くなった糸を止める問題」を例として~
報告者 :下田 翼 学籍番号:02S0038

1.はじめに
 私はゼミと卒業研究で「創造的問題解決の技法」というテーマで、TRIZ(発明的問題解決の理論)やUSIT(統合的構造化発明思考法)を学んだ。その技法を身近な問題で実際に使って習得することを目的として、「裁縫で短くなった糸を止める問題」に取り組んだ。

2.問題の設定
 裁縫とは身近に古くから存在していて、小さな布の傷や糸のほつれを直す時や、ボタンを留める時にとても便利だと思う。しかし、裁縫の最後の玉止めは糸が短くなり過ぎると玉止めが困難になる。玉止めを考えた人はとてもすごいと思う。しかし、その欠点をそのまま放っていたことを残念に思い、自分の新しい方法を、USITを使い解決してみよう思う。

3.問題の分析
 この玉止めの利点と問題点は糸を針に巻きつけて、結ぶ手間を簡素化している点である。針に糸を通したまま針に糸を巻き付けるため糸が針より長くないと糸を巻きつけることが出来ない点である。」

 以下さらに研究報告が続くのだが、それ以上は付き合いきれない。しかし裁縫時の玉止めから、「創造的問題解決の技法」へと繋げていくなんて、ツバサちゃんもやるでねーの。

 さて私に残された問題は、もう一つある。つまり縫い初めに、針に適当な長さの糸を通して、次にその糸の端っこを玉結びするときのやり方である。なんだかこの場合も、片手でくるくるっといとも簡単に結び目を作るようだが、そのやり方がわからないのだ。まあ、これもゆっくりネットで調べてみようか。それともだれか、言葉でうまく説明してくれる?

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佐々木 孝 について

佐々木孝(ささき・たかし) 1939年北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。1962年同学科卒業。5年間の修練生活の後、1967年イエズス会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授、1982年教授となる。1984年常葉学園大学でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、東京外国語大学、駒沢大学、法政大学、早稲田大学などでも非常勤講師を務める。2002年定年を前に退職、病身の妻を伴って父祖の地・相馬(福島県南相馬市)に転居。以後16年にわたり「モノディアロゴス(Monodiálogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」と題したブログを死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。2018年12月20日、小細胞肺がんのため宮城県立がんセンターにて死去(享年79)。
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