きびだんご

五月と六月は孫たち三人の誕生日が続く。今まではお菓子あたりを適当にみつくろって送っていたが、だんだん成長するにつれてそうはいかなくなってきた。といっていまどきの子供たちが何を喜ぶのか詳しいわけではない。
 ところで自分の子供時代はどうだったかを思い返してみると、まともに誕生を祝ってもらったことなど無かったことに気づく。私だけでなく、私の年頃の人間はだいたいそうではなかったか。ケーキなどで誕生を祝うようになったのは、ほんの最近のことである。
 私が初めて誕生を祝ってもらったのは、小学4、5年生のころである(残念ながらその後続かなかったが)。ある年の夏休みの終わり、バッパさんが急にお前の誕生日はいつだ、と聞いてきた。とっさのことで返事に窮していると、自分の誕生日を知らないのか、と怒られてしまった。それまで誕生日など祝ってくれなかったくせに、などと大いに不満だったが、自分がこの世に誕生した日を知らないのは確かに恥ずかしいことだろうとは思った。
 自分の誕生日がなんと夏休み最後の日だということをそのとき初めて知った。お祝いといっても、たとえば夕食にご馳走が出たとかいうのではなく、一本の「黍団子」をもらっただけである。今でもときおり見かけるが、ゆべしを細長くしたような、オブラートに包まれた羊羹状のお菓子である。黍団子というからにはおそらくキビが入っているのだろう。だから今でもお菓子売り場に「黍団子」をみると、懐かしいような、こそばゆいような変な気持ちになる。

佐々木 孝 について

日本のスペイン思想研究者。1939年北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。6年間の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で「モノディアロゴス(Monodiálogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」と題したブログを死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
カテゴリー: モノディアロゴス パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください