南相馬の若き友人から



最後の16年間を過ごした南相馬で得た、父の最後の教え子にして、最も若き友人、そして父の精神的理解者でいてくださった辻明典氏からいただいたお手紙を、氏の許しを得て全文を紹介し、天国の父にささげたいと思う。同じ地に生きる彼によって、まごうことなく人生の集大成であった「南相馬の佐々木孝」が救済されたことに、感銘を受けずにはいられない。生きていれば、今月末に81歳を迎える父に、最高の供養となる彼からのお便りとなった。

拝啓 桜花爛漫、花々が今を盛りて咲き誇っております。一方で、世界ではコロナ禍の猛威にあり、きっと御心配の絶えぬ日々を御過ごしのことと思います。
この度は、「大衆の反逆」の出版、誠におめでとうございます。御祝いと、喜びの言葉お伝えしたく、筆を執りました。
先日、町の書店で注文した尊書が届き、一言一句大切に、夢中で拝読いたしました。先生がご存命の時、「大衆の反逆」を改めて訳し直し、世に、特に平和についての思いを問いたいとの言葉を御聞きしたこと、翻訳に取り組んでいる最中の原稿を拝読する機会を頂けたことなど、まるで昨日のことのように思い出されます。
正に、新鮮かつ鋭い警世の書であり、又、「訳者あとがきに代えて」にありましたように、ユマニスト、つまりは人文主義者としてのオルテガ像がこだまする、達意の名訳と存じました。先生の魂が、不戦、非核、平和への揺るぎない情熱が、目の前に現れてくるようです。
尊書を紐解く度に、現代の世界への危機感を、覚えずにはいられません。第一部十三節、「最大の危険物としての国家」は、特に、そう思わされます。

これこそ今日、文明を脅かしている最大の危険なのだ。すなわち生の国有化、国家の干渉主義、国家によるすべての社会的自発性の吸収である。これはつまり究極的に人間の運命を支え、養い、駆り立てるけきしてき歴史的自発性の抹殺といえる。(214頁)

この部分を読んだ瞬間、私は魂ごともっていかれるかのような強い衝撃を受けました。現代への強い警告、「国家によるすべての社会的自発性の吸収」は、目下音も立てず、不気味に進行中であり、特にこのコロナ禍において、我々は危機感をもって国家を警戒しなければ、と思います。
「大衆の反逆」、特に先生が新たに訳し、世に問うた尊書は、現代でこそ広く読まれるべき名著であると、確信いたします。外出すら困難を極める現在ではありますが、多くの方々が手に取ることを、願ってやみません。
いよいよ、世界は混乱と困難を極めております。
どうかお身体とお心を大切に、御自愛専一に過ごされますよう、御祈り申し上げます。いずれ拝眉の折、御挨拶申し上げますが、取り急ぎ寸楮にて、出版の御祝いと喜びを申し上げます。
御母様、奥様、御息女、そして天におります先生にも、どうかよろしくお伝え下さい。

敬具

二〇二〇年四月二十六日

辻 明典

佐々木淳様

父の手帳に残されたメモ。ミゲル・セルヴェートやバルタサル・グラシアンなどスペイン黄金世紀の人文主義者や哲学者も研究していたようだ。父は平和主義を軸とした解説の執筆を考えていた。
Please follow and like us:
カテゴリー: モノディアロゴス パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください