申告 [深刻] な季節

毎年この時期、学年末の雑務(と言ったらまずいか)、入試にまつわる雑務、そして関連諸会議などが目白押しで、教師にとっては恐怖の季節である。しかし今年からはそれもないとホッとしていたのだが、すっかり忘れていた難事が一つ待っていた。税金の申告である。昨年、退職、不動産の売却、転居と三つの大事が重なったので、その残務処理が残っていたのである(もっとも、不動産売却といっても八年前の買値の約三分の一でのそれだから、税金のかけようもないはずのものだが)。
 地方自治体にしろ国にしろ、たいていの人にとっては日ごろ直接交渉したり接触したりする相手ではない。年に一度の確定申告の時ぐらいのものであろう。私は、もともと気が小さいのか、申告だけで心理的にかなり疲れる。悪いことをしてもいないのに、制服警官になんとなく気兼ねするのと同じである。つまりかなりナーバスになっている。
 そんなとき、市から送られてきた市・県民税申告書の用紙を見て、神経が逆撫でされた。だれもなんとも思わないのであろうか。つまり用紙左上に「〇〇市長様」とすでに印刷されているのだ。被害妄想と言われるかも知れないが、でもこれでは年貢を納める村人とお代官様の関係である。
 先日も町の銀行に出す転居届の宛先が「〇〇銀行様」とあった。面倒だったが、丁重な抗議文を送ったら、即座に副支店長と女性行員が訪ねてきて、丁重な謝罪と以後善処する旨の挨拶をしていった。従来どおりの書式をただただ踏襲していたらしい。
 たぶん今回もそういうことなのであろう。最近、公的機関のサービスが民間企業よりも良くなってきたが、こうした書類の中に相も変らぬ権威主義的な表現が残っている。国立大学の非常勤講師をしていたときも、いかにも大時代的な文面の給料支払い通知で不快であったが、「公僕」という言葉自体を死語にしてもらっては困るのである。
 昨夜、市のホームページにあった「市長への手紙」というアドレスに意見書を送ったのだが、まだ返事がない。私だったら、「貴重なご意見ありがとうございます。さっそく検討させていただきます。お返事今しばらくお待ちください」といったメールが自動的に送り返されるくらいの仕掛けを考えるけどな。そしたらこんな雑文書かなくてもすむ。

(3/10)

佐々木 孝 について

日本のスペイン思想研究者。1939年北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。6年間の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で「モノディアロゴス(Monodiálogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」と題したブログを死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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