アップダイクの初期短編集『同じ一つのドア』(新潮文庫)に収録されている「日曜のいらだち」という作品に、主人公がウナムーノの『生の悲劇的感情』を読んでいるシーンが出てくる。もっとも訳者の宮本陽吉氏は『生の悲劇的感覚』としているが。調べてみると英訳は “Tragic Sense of Life” だから「感覚」と訳せるわけだが、スペイン語の sentimiento はやはり「感情」と訳すべきであろう。それはともかく、アメリカのいわゆる知識人がウナムーノをどう読んでいるのか、興味はある。たぶん日本の場合と同じく、オルテガの方が理解しやすいのではないか。
 ちなみに『悲劇的感情』が初めて英訳されたのは、1921年ということであるから、イタリア語(1914年)、フランス語(1917年)に次いで三番目となる。日本は花野富蔵訳で1942年となっているが、まだ現物を見たことはない。
 とここまで書いてきて、あれっこういうものは『余滴』の方に書くべきだと思い当たった。そういえば、『余滴』も含めて、スペイン思想研究の方は、このところすっかり怠けている。今日の午後は、一年以上も、つまり引越しのとき以来ずっと立てかけたままだったソファーをようやく床に並べた。明日から一階の整理を少しずつ再開して、下でも客人を迎えたり、本が読めるようにしよう。
 明日は珍しく晴れ間が見えるそうだ。

佐々木 孝 について

日本のスペイン思想研究者。1939年北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。6年間の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で「モノディアロゴス(Monodiálogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」と題したブログを死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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