新世界問題

  輪廻転生という言葉を辞書で捜したが見つからない。これはおかしい、ひょっとして「リンネテンセイ」でなく「リンネテンショウ」? やはりそうだった。でも転生は「テンセイ」とも読むけど。たぶん輪廻という仏教用語と組み合わされると「テンショウ」と読ませるのか。

 つまらないことかも知れないが、この歳になっても分からないことがいっぱいあって、やんなっちゃう。

 ともかくなぜそんな言葉を思い出したか、というと、このところまるで納期の迫った下町の職人さんみたいに、今日も、デイサービスからの帰りをクリニック前で待ちうけるなどの仕事(?)以外、日がな一日せっせこまたもや装丁屋さんをやっていたからだ。輪廻転生? そう、そんなものは信じてもいないが、万一それがあるとしたら、さしずめ私などの前世は下町の職人さん、たとえば提灯屋さんとか櫛職人じゃなかったかと思うほど、ちっちゃい仕事が性に合ってるのだ。

 今日も鋏と布切れと木工ボンドなどを使って「アメリカ年代記」の装丁をやってました。あゝそうだ、「アメリカ」という言葉はスペイン語圏では一義的にはいわゆる中・南米を意味します。日本人の言うアメリカは「合衆国」と言う。だから誤解が無いように「新世界叢書」と言い換えた方がいいだろう。

 先日、手元にあるのは40巻と言ったが、よく調べると全46巻、しかもそのうち1巻が2分冊や3分冊のものもあるので、全50巻近くの大コレクションである。「異端叢書」のときと同じ様に、便宜的な訳名をつけてご紹介しよう。

1.提督の歴史 2.ヌエバ・エスパーニャ征服正史(全二巻)
3.漂流と注記 4.ペルー年代記 5.インカの領地
6.敗者の視点 7.ユカタン半島事情 8.アプーレ河の発見
  9.航海日誌
10。報告書簡 11.チチメカ国の歴史 12.最初の世界一周
13.イツアー征服正史 14.ペルー征服
15.アメリカのドイツ人 16.ヌエバ・エスパーニャのインディオの歴史 17.ペルーの発見と征服
18.グラナダ新王国の征服と発見 19.アマゾン河の探検
  20.チラム・バラム 21.インディアス自然史概要
22.フロリダ探検行 23.アルゼンチン 24.古代メキシコの歌と年代記
25.オーストラリア地域の発見 26.トラスカラの歴史
  27.報告と歴史 28.ヌエバ・エスパーニャの古代
29.新年代記と善き統治(全3巻)
30.メキシコ・グァテマラの紀行 31.マゼラン海峡の航路
  32.メキシコ人の起源 33.南アメリカ踏破行
34.インディアス自然・精神史 35.ペルー全史
36.メキシコの征服 37.ペルー、ツクマン、リオ・デ・ラ・プラタ、チリ事情
38.インディオの起源 39.アメリカの海賊 40.テノチティトランの征服
41.チリー諸王国の年代記 42.アロンソ・ラミレスの不運
  43.ユカタン半島史
44.J・セラとカリフォルニアの布教 45.19世紀ラプラタ、モンテビデオ情報 46.カンボジア、日本についての報告

※ ヌエバ・エスパーニャ(新スペインの意)とは16~19世紀のスペイン領、すなわちメキシコ・パナマ以北の中米・スペイン領西インド諸島、米国南西部、フィリピンなどを一括して呼んだ。
※ アプーレ河 ベネズエラ西部を流れる河
※ チラム・バラム マヤの予言の書
※ トラスカラ  メキシコ中西部の州
※ テノチティトラン アステカ王朝の古代都市、現在のメキシコ・シティの位置に当たる。

 先日も言ったが、「新世界問題」の全容は五百周年を過ぎた現在もまだ解明されていない。私にとってその全体像把握は荷が重すぎるが、ただ一点だけはこの際言っておきたい。つまりルネッサンスは確かに人間理解に大きな足跡を残したが、しかしそれはあくまで奴隷制度など多くの人間たちの犠牲のうえに発展させられた閑暇の文化であり、人類はこの新世界問題において初めて全的な人間理解への一歩をようやく踏み出した。しかしその一歩から先を未だに進めていないのである、と。ちょっと大きく出すぎたかな?

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佐々木 孝

佐々木 孝 について

佐々木孝(ささき・たかし) 1939年北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。1962年同学科卒業。5年間の修練生活の後、1967年イエズス会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授、1982年教授となる。1984年常葉学園大学でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、東京外国語大学、駒沢大学、法政大学、早稲田大学などでも非常勤講師を務める。2002年定年を前に退職、病身の妻を伴って父祖の地・相馬(福島県南相馬市)に転居。以後16年にわたり「モノディアロゴス(Monodiálogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」と題したブログを死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。2018年12月20日、小細胞肺がんのため宮城県立がんセンターにて死去(享年79)。
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2 Responses to 新世界問題

  1. 阿部修義 のコメント:

     先生が輪廻転生の転生を「テンセイ」と言われたことに「この歳になっても分からないことがいっぱいあって」というのはソクラテスのいう「無知の知」だと私は思います。「こころの時代」を見ていると自然を「ジネン」と仏教用語で読んでいたのを思い出しました。

     私はアメリカは合衆国だとばかり思っていましたが、「スペイン語圏では一義的にはいわゆる中・南米を意味する」ことを初めて知りました。

     仏教学者の故中村元先生が「物事は比較によって、相対的に判断してこそ、真実が見えてくるものである」と言われていました。スペイン全般に予備知識がない私にとっては、手探りながら何か新しい出会い(発見ではなく)があればと思っています。

  2. エトワール のコメント:

    「アメリカ年代記」の訳名を大変興味深く拝見いたしました。

    ここで、チラム・バラムを目にするとは思いもしませんでした。チラム・バラムは、予言の書といわれていますが、世界の出来事は、周期的に起きるという事実について記載しようとした書物です。現代の構造主義哲学のような記号論も内包されているという人もいます。

    こうした発想は、経済学にもあり、レオンチェフ、クズネッツ、ジュグラー、チキンなどの経済学者は、循環経済論を展開していますし、ムーアのように太陽の黒点周期が、経済に影響を及ぼすという説を主張している学者もいます。

    チラム・バラムは、マニの町で焚書の対象となり、燃やされそうになりましたが、火が燃え移った瞬間に立ち会っていた神官たちが天を仰ぎ苦しみ始めたため、(一説には、同時に大雨が降ったともいわれています。)焚書を行っていたキリスト教の神父が、書物を 火の中から引き出し焚書をやめたといわれています。チラム・バラムは、20巻を超える本でしたが、その中の9冊はなんとか燃えずに救うことができたといわれています。

    このテキストは、今では、大変人気があり、断片的には、かなりの数の邦訳があります。

    マヤ文明は、鉄器を使えない石器文明で、黒曜石のナイフを使用していました。焼畑農業に頼り、トウモロコシやカボチャを主食にし、カカオやはちみつはあったようですが、16世紀近くになっても、生贄をささげていたといわれていますので、大変原始的な文明といわざるをえないと思います。それでも、チチェン・イツァやククルカンのピラミッドを見ると、天文学と暦の知識と石を利用した建築技術は、非凡だったようです。でも、せっかく考えた優れた暦を十分使いこなしていたかどうかは疑問です。

    262年に建てられた最古の石碑が、ティカルという地にあります。マヤ文明は、この石碑建築から、1260年後の1523年にスペイン人の侵攻を受け、その後、滅んでいます。

    1260年は、聖徳太子が讖緯説の周期とした年数です。また、ニュートンが重要な周期として重視していた年数です。

    東洋の60干支暦とマヤのツォルキンと呼ばれる独特の20×13を1周期とする暦は、1260年=460,200日で綺麗に会合するという不思議な一致を見せています。

    アメリカの文明を見る上で、暦は極めて重要だと思います。

    ちなみにチラム・バラムの意味は、不明で、「チ」はジャガーのことで、「バラム」は何らかの神の名前なのではないかといわれています。

    この数年、少しづつですが、研究している興味あるテーマの一つです。

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