吼えろイノブタ!

 本当は、今月26日、マドリードで開催される予定の『原発禍を生きる』のスペイン語版出版記念パーティー(と言うのだろうか)の参加者宛ての挨拶文を書かなければならないのに、それを翻訳してくれる予定の佐藤るみさんには大変申し訳ないのだが、まだ書き出せないでいる。これはもう持病のようなもので、自由に書いていくぶんには、たぶん他の人より気楽に書けるのだが、締め切りのある文章となると、とたんにブレーキがかかってしまう。大抵は物理的に(つまり時間的にも)切羽詰まらないと書き出せないという悪癖は死ぬまで治りそうもないのだ。でも明日は絶対に書き出す、いや書き終えるつもり。

 今回書きしぶっていたのはそのためだけではない。昨日書いた話の続きがやたら気になって、というか腹立たしく、それについてもう少し書かなければ溜飲が下がりそうもなかったからである。

 最近は以前に比べるとテレビを見る回数が極端に少なくなったが、それなのにどういうわけかこの数日、チャンネルをひねると必ずオリンピック関連番組にぶつかってしまう。いずれも能天気な歓迎ムード一色の内容。おまけに慎太郎じいさんが「やっとさっそうとした首相が出てきた」とかなんとかアホなコメントを出したと知って、暗澹たる気持ちになっている。

 「さっそう」で思い出したが、これまで総理官邸のロビーを執務室に向かって歩く歴代の首相たちの歩き方を見てきた。しかし最近それがどうも気になる。正直言うと、おやおやかっこつけて、よくもまあ、けっつまずかないで歩けること、と意地悪い見方をしているのだ。安倍総理だけではない。ヘリコプターから降りて報道陣に手を振って歩いていくオバマ大統領にも、同じような意地悪い見方をしている。内心ヒヤヒヤなのに、さも自信・勝算ありそうな演技をして、無理すんなよー、ほろほら足もと気つけやー。

 こちとらは、最近階段の上り下りも辛くなってきて、おもてを歩くときも決してさっそうとなど歩けないけど、無理してねーど、足元よっくと見て歩いているぞい。

 話はがらりと変わるが、このところ「家畜化」という言葉が頭をよぎる。なぜこの言葉がひっかかっているのか説明が必要だろう。さてどこから始めようか。そう、隣り町の(今は合併して南相馬となっているが)小高の話から。

 出入り自由になってから時々小高に行く。先日もメキシコから来たダニエルさんを案内してきたが、未だに津波被害の痕(あと)が生々しい村上地区や駅前の駐輪所を見るたびに不思議な怒りを覚える。村上海岸の方は、流され崩壊した無残な家屋は当時のまま、そして田んぼの真中には漂着しひっくり返った車があちこちに醜い残骸を晒している。震災後2年半も経つのになぜ片付けないのか。おそらく地権者あるいは所有者問題がからんでいるのだろう。つまり土地や家屋や車両の所有者が遠方に避難していて、その許可なしに勝手に処理できないのだろう。駅前の駐輪所に何百台と並んでいる自転車は、おそらく原町地区や双葉町の高校などに電車通学をしていた生徒たちのものだと思うが、こちらも所有者と連絡がつかないかして放置されたまま。

 しかし考えるまでも無く、これは実におかしなことである。このままだと錆び付いてしまって、所有者が取りにくるころには使い物にならない鉄くずになっている。そうなれば、社会的に見ても不正なことと言わねばなるまい。ダニエルさんもこんなことメキシコではあり得ない、と言う。或る一定期間持ち主が現れなければ、これを必要とする人に、例えばこれを喜んで使ってくれるどこか東南アジアの国にでも提供してはどうか。

 先日宜野湾から拙宅を訪ねてくれた上間さんから、こんな話も聞いた。震災後ボランティアで来てくれた韓国人グループが、津波被害の仮設住宅にたくさんのカップラーメンを持ってきてくれたそうな。でも肝心のお湯がないので、あり合せの鍋に水を入れ、近くに転がっていた廃材を燃やして湯を沸かそうとしたら、順番待ちの行列の中から、持ち主不明の廃材だけど後から文句を言われるから使わない方がいいよ、と声がかかったそうである。これには韓国人ボランティアもびっくり仰天。あきれたというより怒りが込み上げてきたそうだ。こんなこと沖縄だったら考えられないことだ、と上間さんも言う。同じ日本人でもウチナーンチュみたいな人がいると知って少しは安心したが。

 この泣きたくなるような遵法精神。これと似たようなことは、震災後、私自身も至るところで経験した。市役所、銀行、郵便局……

 津波被害のみならず原発事故からの復旧が大幅に遅れている原因の一つは、どうもこの日本人の驚くべき遵法精神にあり、と見て間違いないのではなかろうか。インフラ整備の遅れなどでしきりに聞こえてくるのはやはり地権者という言葉である。法律問題には暗い私だが、こうした地権者問題も含めて、災害時特別措置法とかなんとか、復旧に必要な諸手続きの簡略化、時には国の責任の下に、思い切った処置が講じられる法の整備がなされたのかどうか。どうもそうではないらしい。

 安倍首相は被災地視察をしたそうだが(駆け足で?)、どこを見てどう感じたのだろうか。国際舞台でどんなにかっこよく啖呵ををきろうが、現実は瓦礫の山が一向に片付かない被災地を残したままのニッポンなのだ。東北道も常磐線も繋がらないまま放置されている。前述したような特措法を効果的に行使して復興を急ぐことなど政治力があれば出来ることなのに、と地元ではホゾを噛んでいる。単なるかっこマンではなく、角栄さんみたいな政治家が一人いればとっくに片付いているのではないか、と思わないでもない。

 ただ最後に一つ念を押しておきたいことがある。私がいちばん願っているのは、こうした「スピード感」をもった物的復興なんぞではなく、足元を見ながら地道に再建を目指す精神的な復興だということ。これは政治力で解決できるようなものではなく、被災地住民自身の精神的覚醒が必要。と考えると、道なお険し、道なお遠しの思いが胸をつく。

 いやいや大事なことを忘れていた。例の「家畜化」という言葉の説明である。もうお分かりと思うが、要するに、日本人は時に外国人から賛嘆の声が上がるほど一糸乱れぬチームワークを見せるが、それは子供たちの例の二人三脚競技のように、異論や個性を認めない塊(かたまり)になること、まさに一丸となることと紙一重だということである。つまり遵法精神といえば聞こえはいいが、それは為政者の言うがままになるおとなしい国民にならされたことを意味しないか。要するにこの場合の国民化は家畜化に等しい。

 正しい怒りを忘れたブタ国民になんぞ死んでもなるもんか、とこの反逆するイノブタはひとり怒ってる。いや一人でないことを切に願っている。全国のイノブタよ奮起せよ!

※大急ぎの後記 イノブタは馴化しない半・野生の動物の意で、イノシシとブタを交配してつくった一代雑種で食用化された品種という本来の意味でないことはもちろんです。食用に供される?、ブルッ、トンでもない。おいどんを食おうものなら、猛毒のため即死しまっせ、念のため。

※ウチナーンチュの上間さんが、「私も吼えるイノブタならぬ吼えるアグー(琉球在来豚)です」と申し出て下さった。でも美人の彼女がブタとはトンでもない。でもその心意気は頼もしいっす。

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佐々木 孝 について

佐々木孝(ささき・たかし) 1939年北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。1962年同学科卒業。5年間の修練生活の後、1967年イエズス会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授、1982年教授となる。1984年常葉学園大学でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、東京外国語大学、駒沢大学、法政大学、早稲田大学などでも非常勤講師を務める。2002年定年を前に退職、病身の妻を伴って父祖の地・相馬(福島県南相馬市)に転居。以後16年にわたり「モノディアロゴス(Monodiálogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」と題したブログを死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。2018年12月20日、小細胞肺がんのため宮城県立がんセンターにて死去(享年79)。
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2 Responses to 吼えろイノブタ!

  1. 阿部修義 のコメント:

     先日、先生が取り上げられたシャルダンの『現象としての世界』は、一言で言えば、人間の世界・霊魂の世界と、自然の世界・物の世界とは同根であって、決して別々のものではないということだと思います。先生が懸念されていることは、繰り返し言われている「自分の心で感じる」ことをしないで、為政者の尻馬に乗って、つまり付和雷同しているのが一般的な日本人の実情という点だと私は思います。

     自然はまず心を持った人間を創り、それに厳粛・深遠な法則を立てたのでしょう。「自分の心で感じる」とは、その法則に順応した判断を行使させ、実生活の中で活きた智慧を与えるものなのかも知れません。ものに溺れるのでなく、深く考え、「自分の心で感じる」ことの必要性が今、問われているように私は思います。

  2. 阿部修義 のコメント:

     『現象としての世界』と書きましたが『現象としての人間』です。天人合一という東洋思想にも通じるもので、アインシュタインも同じようなことを言っています。訂正させていただきます。

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