電磁空間の中の私的アーカイブス

今日が何日で何曜日かということをほとんど意識しない生活が続くと、本当に今日が何日かが分からなくなってくる。新聞も一応は取っているが、めったに読まなくなってしまった。妻がちょっと目を通し、後はクッキーのふとん、オシメに早変わり。最近ではテレビも食事時にちらっと見るだけ、そしてビデオはまるで見なくなってしまった。衛星テレビもNHKのものはときどき、そしてスカイパーフェクトの方は受像状態があまり良くなかったこともあって、先月限りで解約することにした。
 それでは世の中の動きから取り残されるのでは、と思われるかも知れないが、決してそんなことはない。外から入る情報量は、もっと減らしてもどうってことはなさそうだ。じゃ暇だな、と思われるかも知れないが、これが結構やることがあるものだ。他人から見ればどうってことがないものに見えるかも知れないが、べつだん時間的な制約がないので、一つ一つの作業をゆっくり丁寧にやる。それではさぞかし家の中が掃除が行き届いて綺麗になったでしょう、というと、そんなことは全くなく、逆に今までよりも家の中がごたごたしているかも知れない。つまり考えてみればぜひともやらなければならないことなど、もともとそう多くはないということだ。その時々に出合ったり見つけたりした物たちとの再会を、その都度楽しんでいるまでである.
 たとえば長い休みの初めに感じる期待感のようなもの、さあ今まで読めなかった本とかそれまでしたくともできなかったことができるぞ、との期待感に似た感情を毎朝感じながら起き出すというのは、贅沢で勿体ないように思う。
 それでは今いちばん時間をかけている作業はというと、これまで書いてきた作品や論文や雑文をネットに乗せる(業界用語で言うアップ)作業である。ところでこれらの文章がどのようにしてプロバイダーのところに保存されていくのかまったく分からないままに、最終的にはおそらく何千ページにもなる電字化された自分の文章のことを考えると、なんだか夜空を眺めるホーキンス博士みたいな気持ちになってくる。そして自分の子孫が月々いくばくかの使用量を払い続ける限り、電磁空間の中に半永久的に自分の文章が存在し続け、読もうとする人(がいればの話だが)にはいつでも読んでもらえる、と考えたら不思議な感動すら覚える。おや、本当に涙が…(まさか、ウッソでーす)。    (11/2)

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学など他大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、死去(享年79)
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