むしろ無駄な買い置きを

いわゆる論文といえるものはすべてネットに収録したと思っていたが、今日の午後改めて点検してみたら、一九九〇年に書いた「ビトリアと『インディオについての特別講義』覚え書き」が残っていた。昨日も書いたが、専門のスペイン思想に関しては、二年半ばかり前の中公版オルテガ『大衆の反逆』の解説が最後で、以後スペイン思想からはすっかり遠ざかっている。残された時間のことを考えると、そろそろテーマを絞り込まなければならないのだが…。結局はビーベスを中心とする十六世紀スペイン人文主義思想、とりわけ「平和の思想」を最終ターゲットとすることになるだろう
 午後、明日のいわき行きの御土産を買いに、いつもの鹿島「香の蔵」に行った。豆腐の味噌漬けが好評なのでそれを買いに行ったのだが、今までは紙の外箱入りで一個八百円だったものが、いつの間にか千円に値上げされていた。紙の外箱の代わりに竹の皮で包まれているのは趣きがあっていいのだが、それで 二百円アップ。うーん残念だが仕方ないか。その帰り、量販店のジャストに回ってクッキーのオシメや高齢犬用のドッグフードなどを購入。大型オシメ五〇枚入りが二百円割引で八百円。ちょっと迷って四個買った。
 ちょっと迷ったわけは、正直言うと、すごーく恥ずかしい理由からである。つまり最近、クッキーのオシメやフードを買うとき、もしかして無駄になるかな、と心の片隅でケチ臭い考えが浮かぶのである。一九九二年の文化の日生まれだから、いま十二歳。そのうち半分は箱の中で暮らしている。二年半ほど前、もう駄目かと諦めかけたときもあったが、それ以後すっかり元気になって今日に至っている。一日七―十回のオシメ交換には、正直うんざりするし、部屋にこもる臭気が鼻腔にも染み込んだようで、あゝいつ清浄な空気が吸えるのか、と絶望的な気分になるときがある。
 しかしそんなとき、クッキーがいざ居なくなったときの寂しさ、やるせなさ、のことがとつぜん胸に迫ってきて、ケチ臭い自分の考えを急いで振り払う。そしてこのままずっと長生きさせてくださいと、すべてのものの命を司る「神」に向かって心からなる祈りを捧げるのである。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学など他大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、死去(享年79)
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