夕食後、二人とも期せずして無性に甘いものが食べたくなった。八時を過ぎたから、もちろん近くの店はみな閉まっている。それでバイクでスーパーにでも行ってみようと思い立った。駅通りを半分近くまで行ったとき、アクセルを廻してもなんだかカスカスと頼りない。故障かな、と思ったが、すぐガス欠だと気がついた。最近、車ばっかり使っていたので、ついバイクのガス欠状態に気づかなかったのだ。
こういうとき田舎町では困ったことになる。まず街中のほとんどのガソリンスタンドが閉まっている。案の定、真っ暗な夜道をバイクを押しながら向かった最初のスタンドは、既に真っ暗だった。家に引き返そうと思ったが、ここまで来てそれも癪だ。そうだ陸橋を越えて六号線の手前にいくつかスタンドがあったはず。ええい歩いていけ。
しかし日ごろの運動不足がたたって、陸橋を登っていくうち膝ががくがくしだした。これではスタンドに着く前に、どこかにバイクを置いてタクシーで帰るしかないか、と半ば諦めかけたとき、線路の向こう側の最初のスタンドが目に入った、しかしそこも密かに恐れていたように既に真っ暗。だが待てよ、その隣のホンダのサービス・ステーションの奥に明かりが……
店の奥から出てきてくれた女子事務員、さらにその後ろから出てきたサービスマンに助けられた。つまり作業場から三リッターのガソリンを持ってきてくれたのだ。地獄に仏とはこのこと。何度もお礼を言って夜道を帰ってきた。もちろんお菓子など買わずに。なぜなら、途中ケータイを自宅にかけたが留守録になっていて用を成さず、妻があまりの帰りの遅さにパニクっていることが予想できたからだ。
教訓…田舎では夜間のガス欠に注意せよ。
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※本文中の太字、朱書き、アンダーライン、マーカー等の処理はすべて、死後、息子によって為されたものです。
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