ガス欠に注意!

夕食後、二人とも期せずして無性に甘いものが食べたくなった。八時を過ぎたから、もちろん近くの店はみな閉まっている。それでバイクでスーパーにでも行ってみようと思い立った。駅通りを半分近くまで行ったとき、アクセルを廻してもなんだかカスカスと頼りない。故障かな、と思ったが、すぐガス欠だと気がついた。最近、車ばっかり使っていたので、ついバイクのガス欠状態に気づかなかったのだ。
 こういうとき田舎町では困ったことになる。まず街中のほとんどのガソリンスタンドが閉まっている。案の定、真っ暗な夜道をバイクを押しながら向かった最初のスタンドは、既に真っ暗だった。家に引き返そうと思ったが、ここまで来てそれも癪だ。そうだ陸橋を越えて六号線の手前にいくつかスタンドがあったはず。ええい歩いていけ。
 しかし日ごろの運動不足がたたって、陸橋を登っていくうち膝ががくがくしだした。これではスタンドに着く前に、どこかにバイクを置いてタクシーで帰るしかないか、と半ば諦めかけたとき、線路の向こう側の最初のスタンドが目に入った、しかしそこも密かに恐れていたように既に真っ暗。だが待てよ、その隣のホンダのサービス・ステーションの奥に明かりが……
 店の奥から出てきてくれた女子事務員、さらにその後ろから出てきたサービスマンに助けられた。つまり作業場から三リッターのガソリンを持ってきてくれたのだ。地獄に仏とはこのこと。何度もお礼を言って夜道を帰ってきた。もちろんお菓子など買わずに。なぜなら、途中ケータイを自宅にかけたが留守録になっていて用を成さず、妻があまりの帰りの遅さにパニクっていることが予想できたからだ。
 教訓…田舎では夜間のガス欠に注意せよ。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学など他大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、死去(享年79)
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