ちょっと品の無い巨大拳銃のホルスターみたいなものができあがった。もともとはバッパさんの古いバッグである。鎌倉彫りで彫られたような花柄をあしらった革の手提げカバンを解体して、マルタという長さ三十四センチ、幅十一、五センチのサンポーニャのケースを作ろうと思ったのだ。
もちろんその作業にかっかりきりだったわけではない。でも完成しないうちは他のことが手につかず、結局二日がかり。それもまだ未完成である。普段は眠っている職人気質(!)が眼を覚ましたのだろうか。他人からみれば徒労と思える作業に没頭する羽目になった。
まずバッグを解体して、胴体(?)の片側をさらに半分に切り、かなりの厚さの革の縁に沿って千枚通しで針穴を開け……いやいや細かい作業の話はやっても意味がない。いずれどこかでお目にかける機会があるであろう(ないか?)。でもいちばん苦労したところだけはご報告させていただきたい。先ほど革の縁に沿って千枚通しで針穴を開けたといったが、厚手の革と革を縫い合わせるには、かなり太目の糸が必要である。理想的なことを言えば、細い革の紐で編んでいけばいいのだが、そのための道具もないし、もともとそこまで凝る価値も無い代物である。
それで手元にあった凧糸を使うことにしたのだ。だが太い凧糸を通す針がない。それで糸の先端を糊で固めて、つまり糸自体をいわば針のようにして、千枚通しで開けた穴に通すことにしたのである。これがなかなか根気にいる作業となった。糸の先端を折り曲げないようにして細い穴に通すのは至難の業なのだ。なにやら聖書の中にこれと似たような状況を設定した喩えがあったな、などと考えながら作業を進めていくうち、あゝ俺はなんと無駄なことに時間を費やしているんだ、と絶望的な気分に落ち込んだ。
でもぶっちゃけた話、これ以上価値のある時間の使い方って差し当たって何がある?
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※本文中の太字、朱書き、アンダーライン、マーカー等の処理はすべて、死後、息子によって為されたものです。
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