どうも気になる

毎日、昼食後、家内と車でまず近くの公園に行き、車を止め、後部座席の背もたれの上に置いてあるそれぞれ三種類の帽子の中から、その日の気温、日照にふさわしいものを選んで被り、そして歩き出す。今のところ約2,500歩の短い散歩である。
 公園と言っても丘陵地帯に作られているから、アップダウンの激しいハードなコースを選ぼうと思えば選べる。事実、何かのトレーニングを兼ねているのか、いかにもスポーツマン・タイプの歩き方をする人とすれ違うことがある。しかし時間帯のせいもあって、たいていは私たちのような老年夫婦か、あるいは飼い犬を散歩させながらシェイプアップを図る若い女性である。
 今日もいつもの平坦なコースを歩き、博物館下の芝生に差し掛かったときである。若い母親がよちよち歩きの幼児とボール遊びをしているところに行き合わせた。そこは1メートル近くの段差があって、下は石組みの下水溝になっている。幼児は下にいる母親とボール遊びをしているのだが、やっと歩き始めたばかりなのか、よたよたしている。ところがである、母親は後ろにそらしたボールを追って、後ろも見ずにゆっくりと歩いていくではないか。余計なおせっかいかも知れないが、通りすがりに少しきつい言い方で「あぶないよ!」と、幼児に向かってか母親に向かってか分からぬ風に叫んでしまった。しばらく行ってから振り向いてみると、危険に気が付いたのか、親子は上の芝生に移って安全なところで遊び始めていた。
 先日は二人の幼い子供を敷物の上に遊ばせて、自分たちはバドミントンに興じている若いカップルに出会った。それはそれでなんとも長閑な光景なのだが、ふと見ると、重戦車(ちと古すぎる言い方!)のようにあたりを踏みしだく奥さんのすぐ足元に、あどけない顔をしたダックスフントの子犬が虫でも見つけたのか、うずくまっていたのである。夢中に羽根を追うあの太い脚に踏み潰されたらどうしよう!
 そんなこと心配すんなって、幼児が下水溝に頭から落ちて大怪我をする、もしかして死ぬ可能性、また子犬がぶっとい脚(悪意がある言い方かな)に踏み潰される確率は、限りなくゼロに近い、と言う人がいるかも知れない。いや世の中、ほとんどのことはそのような予測のもとに進んでいるのかも。だけどなー、たとえそうであったとしても、危険に晒されているのが他ならぬ幼い生命なら、話はまた別だべさ。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学など他大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、死去(享年79)
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