今日の話題は気が重い、なんていうのは真っ赤なウソで、実はわくわくしている。夕食後、二階廊下の本棚や階下の書庫から三冊ほどの参考書を探してきたほどである。まず安岡章太郎さんの『放屁抄』(岩波書店、1979年) と同じく安岡章太郎編『滑稽糞尿譚 ウィタ・フンニョアリス』(文春文庫、1995年)、そして中村浩著『糞尿博士・世界漫遊記』(現代教養文庫、1983年、17刷) である。
そう、ウンコの話をしようと思ったのである。それも人様のものではなく、自分のものについて。ありがたいことに、胃腸の方はここ数年調子がよく、したがって出てくるものも落とし紙(なかなか風雅な言葉でんな)をほとんど使わなくてすむ(もちろん少しは使いますよ)。そして不思議なもので、以前はだいぶ違っていたはずなのに、最近は美子も私とほとんど同じものを出すようになったのである。大きめの匙で、同じ茶碗、同じ皿から私とほぼ同量のものを食べさせているのだから、似てくるのはとうぜんなのだが。
しかし美子はそうでもないが、私の方は便秘気味で、出すのにちょっと苦労する。毎日一回は心がけているのだが、どうも昨日はなにやかやと忙しく、つい出さなかったためか、昼過ぎに大変なことになってしまった。むかーし一度大変な難儀の末、馬糞石(海胆じゃありませんぞ)のようなものをひり出したことはあるが、今回はそのときよりも手こずりそうな予感がした。お尻周辺の神経は、鈍いようで実はかなり精巧で、そうした予感はほぼ間違ったことはない。
で、これはイチジクさんの力を借りなければ、と咄嗟に判断した。それで一時引っ込める(何がって?分かるでしょ)ような形で、急いで美子を後部座席に坐らせて、スーパー内の薬局に行きましたよ。ありました、二本入りで、千円ちょっとのが。
帰ってきて仕切り直し。しかしすぐ出ると思ったのに、これがなかなか。奮闘(糞闘?)十分、出てきました出てきました。急いで覗いてみたら、なんと直径5センチ、長さ25~30センチくらいの巨大ウンコ。なかなか出てこられなかった理由が分かりました。要するにソーセージ製造機のように、適当な長さのところでいわゆる蠕動運動をしながらひり出すはずなのに、あまりに長いためにそれが出来なかったせいではなかろうか。
それをどうしたって?(あっみんな引き始めてる!)柄の長い掃除用のブラシで半分に折って、流そうとしたが流れません。タンクの水は使いきったので、すぐ側の洗面所から洗面器に水を入れて五回以上も勢い良く落としたけどダメ。
さすが皆さんお顔をしかめておられるのでこれ以上実況報告はやめるが、ガボッと大きな音を立てて流れたのは、他にいろんなことをしたあと、夕方近かったとだけはご報告しておく。こんな糞闘記を書くことの意味を急いで書くには、これまで何回かご披露した自説をごく簡単に述べる必要がある。つまり人間のもっとも厳粛な問題たる終末論(エスカトロジー)と糞尿譚(スカトロジー)の切っても切れない関係、そしてアリストテレスの言う浄化(カタルシス)と排泄のこれまた密接な関係…あゝそれを再度説明するのはやっぱメンドウなり。今回はこれで一件落着とさせていただく。参考文献についても、またの機会までおあずけ。何?残便感が気になるって? それじゃどうぞお宅の雪隠(この言葉もいいっすなー)のお急ぎあれ!
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※本文中の太字、朱書き、アンダーライン、マーカー等の処理はすべて、死後、息子によって為されたものです。
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