阿Q精神は是か非か

竹内好の「阿Q正伝」というエッセイ(「文藝読本 魯迅」所収、河出書房新社、1980年)によると、やはり阿Qとは何者か、をめぐって今日まで様々な見解が出て、いまだ決着を見ないようである。要するに阿Qのような人間であってはならない、という意見から、どのように言い訳しようと、阿Qは中国人民の真の姿である、という意見まで侃侃諤諤の主張が飛び交ってきたらしい。「負けるが勝ち」式の必勝法を肯定する人もいるようだが、さすがにそれは少数派らしい。
 その点阿Qは、見果てぬ夢を追い求めたドン・キホーテとは大違いである。つまり辱めに耐えるという点ではドン・キホーテに似ていないことはないが、しかし阿Qは常に負け犬的で、あまりに卑屈だということである。かと言って、我々は既に阿Qを乗り越えた、と主張する最近の中国の思想的傾向に対しては、小首を傾げざるを得ない。つまり阿Qが中国農民の本質を具現した人物というのが真実なら、革命の担い手であったという彼の農民性と、その行動(具体的にはその必勝法)とを峻別して、その一方すなわちその必勝法だけを否定するわけにはいかないからである。
 別言するなら、阿Qという人間には全否定…
 今晩はちょっと頭が回らなくなってきたので、明日、もっと頭脳明晰のときにこの問題を考えます。今日の収穫は、「狂人日記」のスペイン語訳をテキストに使ったスペイン語教室の授業が、先週とは違って聴講生の興味と関心とうまくかみ合い、調和よく授業が進んだこと、そして1976年、魯迅没後40年を記念して出版された二つの雑誌の「魯迅特集号」(「思想」と「ユリイカ」)と「文芸読本 魯迅」(河出書房新社、1980年)の三冊を布表紙の合本にしたことくらいだが、その貧しい成果にともかく満足しよう。

アバター画像

佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学など他大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、死去(享年79)
カテゴリー: モノディアロゴス パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください