久し振りの気晴らし

 『モノディアロゴスⅣ』の編集が終わって、あとは毎日すこしずつ印刷・製本をしていくだけになった。だから今晩はご褒美として、久し振りに映画でも観ようかということになった。といって誰かに相談したわけではない。以前だったら美子と一緒に観たのだが、現在ではそれもできない。最近まともに映画を観たことがないのは相手がいないからだと初めて気がついた。まっいい、側に坐っているだけで我慢しよう。
 録りためた映画のどれを観ようか迷ったが、題名が面白そうだったので『トゥルー・クライム』にした。クリント・イーストウッド主演のサスペンスらしい。酒と女にだらしなく、幼い娘がいる家庭も崩壊寸前。その彼が、執行前の死刑囚の無実を信じて、真犯人(すでに死んではいたが)を見つけて、執行を寸前で止めさせるという、かなり荒い筋書きの映画である。
 あとから調べると、やはり彼自身が製作・監督した映画(1999年)だった。つまり『ダーティー・ハリー』の刑事が新聞記者に変わっただけの映画で、サスペンスの勘所だけは知っているが、犯人を黒人にしてすこし社会派監督ぶってはみたが、人間の描き方がどうも荒っぽい。やはり彼は、昔とった杵柄ならぬマグナムをぶっぱなしていた方がお似合いかも。まっ娯楽映画としてそれなりに楽しんだのだから、ケチをつけるのはやめよう。
 連日、エジプトの無血革命のことが報じられている。久し振りに嬉しいニュースだ。フィリピンのイメルダ(肝心のだんなの名前が出てこない、出てきた!マルコスだ)、ルーマニアのチャウチェスク、そして今度のムバラク、などの失脚を見て、ショウグン様は何を考えているんだろう。自分はそうならないと思っているのだろうか。人間は、とりわけ権力者は、どこまで馬鹿なんだろう。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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