もっきりの精神

本当は二、三日前から書き出した文章(抗議文)が他にあるのですが、途中なんだかイヤになって投げ出したままです。いや別にたいした物じゃありません。それは日本郵政?、郵便事業?、郵便局? まるで八岐大蛇(やまたのおろち)みたいで、どれを相手にしたらいいか未だに分からない怪物相手の文章ですが、もう今までさんざん書いてきたネタだし、何を言ってもウンともスンとも反応が返ってこないので、いくら抗議したり提案しても意味が無いことは分かりきっているのですが、でも仕事がら一日おきぐらいに相手にしなけりゃならない相手なものですから…。
 つまりですな、たとえば今じゃレターパック・ライトなんて洒落た名前に変わった大型封筒に本を入れて送ろうとしますわな。「厚さ3センチ、重さ4キロ」という制限があります。それで送ろうとしている本は厚さ2センチぐらい、余裕を残して制限内です。だったらそのまま買い物ついでにスーパー前のポストに入れていいはず。しかし以前、3センチすれすれのものを送ったところ突き返されたことがあるんですわ。抗議すると、確か局員が二人訪ねてきてのすったもんだのあと、では今回は特別に、なんとかかんとか恩着せがましいことを言われたリ、また別なときには、500グラム以内290円の規格どおりにポストに入れた「ゆうメール」が翌日郵便受けに料金不足扱いで戻されていたこともあり、その時は明らかに相手の勘違い(それもプロにあるまじき)なので局に行って厳重に抗議し、一日遅れで速達扱いにしてもらったこともあります。
 郵便局とのこうした小競り合いは数え切れないほどあり、それでも親切な女局員や、たまにとても愛想のいい若い男の局員がいたりでなんとかここまで来ました。しかしこんな関係がこれから先もずっと続くのかと思うと、正直うんざりです。
 話はとつぜん変わりますが、「もっきり」ってご存知? 「もっこり」とちゃうよ。この言葉、死んだばっぱさんに教えてもらいました。大昔、ばっぱさんの実家が入り婿の幾太郎さん(私の祖父です)の株失敗で破産した後のこと、つまり結局は一家で北海道へ入植しなければならなくなる前のことですが、一時期小高の町で酒屋さんをしたことがあるそうです。場所はたぶん小高神社の近く。で、その酒屋さんの店先というか店内で「もっきり」をやったらしいんですわ。つまり今で言う立ち飲みです。ガラスのコップと受け皿、他に煎り豆かなんかさえあれば、これが結構な日銭を稼げるというわけ。「もっきり」つまる盛り切りといっても、コップの先端ぎりぎりまで酒を注いだだけでは、客は満足しません。常連客をつなぎ止めるには、酒がコップの先端を越えて受け皿にこぼれるようじゃなきゃ駄目なんですわ。一口飲んだあと客はその受け皿にこぼれた酒を大事そうにコップに戻す。このときの得したような幸せな気持ち…これがこの商売のミソ。
 でもこれって商売の要諦ちゃいます? なーんてわざとらしい関西弁で言うのもなんですが。つまりですな郵便局も民営化をしたからにゃ(ここで先の話と繋がります)、この「もっきり」戦法を上手に使うぐらいの商売っ気が必要だということです。つまりでんな、厚さが2、3ミリ越えたから突き返すなんてケチくさいやり方してると、そのうち黒猫さんたちに客を取られて商売上がったりになるということ。なに、そうはならない?つまりそれは、そうならないように総務省あたりが黒猫さんあたりに上手に規制をかけてるからですわ。それちょっとズルイんとちゃいます? 
 つまりでんな、この間の原発事故後のあの醜態で、あゝ思い出すだけでも腹が立ってきます、はっきり分かったのは、民営化なんてウソっぱち、相も変わらず本質は国営企業ばりばりだということです。
 いや、こちとら政治家じゃないからここでそんな議論するつもりはありません。ただ商売するならフェアーに、正々堂々と、ということは性根入れ替えてサービスにこれ努めてほしいんですわ。ずっと前に民営に踏み切った国鉄さんは、いろいろ努力してまっせ。たとえばでんなJR九州さん、いろいろ企業努力をして、売り上げ倍増ですって。上も偉いけど、社員一人一人の意識革命がなけりゃ、ああは行きません。
 モニター制度って知ってます? 消費者や利用者に依頼して、商品やサービスに関する助言を求めて改善をはかり、その結果を会社自体の経営隆盛に繋げる制度ですわな。たとえばですぞ、この私がこれまで事あるごとに言ってきたことなど、自分から言うのも何ですが、謝礼金を出してもソンはないほどのグッド・アイデアになり得たとは思いません?
 たとえば今言ったばかりの「もっきり」ですが、これぜひ考えてみて。今思い出しましたが、以前、休日窓口を利用したときです。そのときもレターパックを出したのですが、じゅうぶん規格内だと分かってましたが、付き返される恐怖心ちゅうか、そんないやな目に会いたくないの一念で、その休日窓口に持って行ったんです。「規格内かどうか心配で持ってきたんですが」と言うと、窓口の向こうのおねえさん、「あゝ、この点線のところが隠れてなければ大丈夫ですよ」と明るく答えてくれました。これです! 本当のサービスっちゅうのは、窓口の向こうで出された封筒を陰気で厳しい顔を作って、例のセルロイドの穴付き定規に封筒を潜らせるなんてのは、これ客商売の作法に反します。ここは「もっきり」精神に徹して2、3ミリの誤差(?)についてはガタガタ言わないか…
 そうですね、こんなやり方どうです? つまり局員が客の鼻先で測るのではなく、たとえば窓口の外に「レターパックを出される方は、この測りをお使い下さい」くらいの、客の心理を逆撫でしない柔らかな方法にするというのは?
 おっとここまで書くつもりはなく、今日はいま考えているもっと楽しい(?)、建設的な内容の文章を書くつもりだったんです。でも今さら逆戻りは出来ません。またかー、とがっかりされるようなことを書き連ねてしまいましたが、楽しい内容の事は明日、いや明後日あたりにゆっくりご披露しますので、今日のところはこれでご勘弁下さい。
 それから郵便局宛ての手紙は、ここ原町局と鹿島局、それとお隣りの相馬局宛てにするつもりです。局長(店長さん?)だけでなく、むしろ若い局員に読んでもらいたいので、宛名に「皆様」と書くつもりです。あともう一つ、田舎の爺さんの繰り言と見做されて握り潰されるのはイヤですから、郵便局についていろいろ書いた『原発禍を生きる』が、中国語、朝鮮語、そしてスペイン語になって世界中に(大げさですが)日本の郵便局の実態が知れ渡ってしまったこと、さらにはD大学の入試問題に他ならぬ「あゝ<想定外>」、つまり郵便局の対応のまずさを批判した一昨年4月10日の拙文が使われていることなどコピーも付けてお知らせしようと思ってます。
 こんな小言幸兵衛みたいなこと、いい加減止めたいのですが、でも大っきなことばかりが大事じゃありません、西川きよし師匠の言うように「小さなことからこつこつと」やることこそ、少しでも世の中住みやすくなる近道かも…でも正直疲れます。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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