フロスト越年

いつの間にか年を越えて今日で四日目。うっそだろう!
それにしても時間の過ぎるのが早いこと!
 こうしてビックリマークをいくつ並べても意味が無い。ともかく二〇一六年、平成二十八年が始まったわけだ。さて前回書いたときから身辺ほとんど変化なし。年内締め切りの原稿を一つ書き上げたのが唯一の収穫か。あとは届いた年賀状を読んだり、その返事を書いたり、でいつのまのか時間が過ぎた。あゝそうそう、フロスト警部とは依然として付き合ってまっせ。いま『冬のフロスト』の三分の一あたり。
 Frost at Christmas(クリスマスのフロスト)、A touch of Frost(フロス日和)、 Night Frost(夜のフロスト)、Hard Frost(フロスト気質)、Winter Frost(冬のフロスト)と読み進んできたわけだが、こうして題名を並べてみてようやく或ることに気付いた。つまり警部の名前フロストは普通名詞で「霜」を意味していることだ。彼の行くところ、すべてが霜に当たったように虚飾が剥げ落ち、飽食と欲望にまみれた人間の実態がさらけ出される……訳者も評者も誰も教えてくれなかったが、そんなことわざわざ教えるまでもない、というわけか。いやいや読者の中には英語が得意じゃない私みたいな者がいるんだから、そこはていねいに教えてくれなくちゃ。
 実は邦訳がまだ無い最終作の A killing Frost はどう訳すのかを考えていたとき、あっ、と分かったのだ。Killing は「殺す」という意味ではなく「枯らす」の意味ではないか、と。芹沢恵さんは何と訳すのだろう? 「霜枯れのフロスト」なんてのはどうかな?
 ともかく簡潔だが意味不明の原題の謎がこれで解けた。「フロスト日和」(A touch of Frost)なんてのは名訳だね。ただし Hard Frost の hard をなぜ「気質」と訳したのかはまだ分からない。
 ところで長編五作は芹沢女史の名訳で楽しんできたが、たとえば「屁のつっぱりにもならない」なんて言葉は原作ではどうなっているのか、気になり始めたのだ。それで急いでアマゾンの洋書を検索したところ “Hard Frost” がなんと送料込みで257円で出ているではないか!つまり破壊された値段で。これを買わないっちゅう法はないでしょ。さっそく注文したら元旦に届きましたぞなもし。そのうちゆっくり訳文と比べてみるつもり(暇っすなー!)
 さてこうなると邦訳の無い最終作が俄然気になりだしました。そう、結論から申せば、破壊された価格ではないにしてもアマゾンで送料込みで安く手に入ることが分かり、さっそく注文したのです。明日あたり届くはず。
 久しく読んでなかった英語本、果たして読めるでしょうか。それもとんでもなく下品なスラングいっぱいの英語を。
 それでなくとも老い先短い我が身を省みると、そんなクソ警部にうつつを抜かしてていいんでしょうか。でも先だっても書きましたように、このクソったれ世の中に立ち向かうスベをこのしょぼくれ警部から教えてもらえそうなんです。
 腹が立つのですぐ消しますが、あの■■ったれ宰相、テレビで今年の抱負とかを油ぎったドヤ顔でしゃべくってます。毒を以って毒を制すじゃないけれど、あんな御仁に上品な言葉で理を尽くすなんてやってられません。放送コード(?)ぎりぎりの言葉で罵倒するっきゃないでしょう。「とっとと降りやがれ、今様■■■ストめッ!日本ぶっこわす気か!」 そして一強だかなんだか言うばっかしで為すスベを知らぬアホなマスコミには、「いつまであんなヤツをノサバラセてやがんだ、アホンダラ!もっとシャキッとせいや!」もちろんこんなところからでは、その罵倒の言葉さえ彼らには届きましぇーん、悔しいけれど。
 でもフロスト警部のように世の不正に対する怒り、弱者に対する共感と(そして恥ずかしながら)アイを叫び続けたい!今年も機会あるごとにロートル湯沸かし器を沸騰させるぞーっ。
 最後はシッチャカメッチャカになりましたが、皆さん、本年もどうぞよろしく!

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学など他大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、死去(享年79)
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