思いがけない再会

もう一方(ひとかた)とのメール交換だが、この人とは初めてのお付き合いではなく、実は40年以上も途絶えていた交流の劇的な再開でもあったのだが、しかし再会ということに関しては、その前にもう一つの再会についてお話しした方が良さそうである。
 具体的に言うと、スペインの造形作家(と言うべきかどうかさえ分からないのだが)ホセ・マリア・シシリアさんとの再会である。彼は五年前、福島県立美術館での大震災をテーマにした彼の個展の前、映像作家でジャーナリストのロブレードさんと一緒に拙宅にいらした。その時の映像はこのブログ上方の「メディア掲載情報」でご覧いただける。その後、音信は途絶えていたのだが、数か月前(すぐ正確な日時は調べられるが、今は皮膚炎で注意力散漫のため、大雑把に)盛岡のNPO法人「岩手未来機構」のさんからのメールで、彼があの時以来ずっとその機構の顧問を務められ、毎年主に津波被災地の学校などでのワークショップのため来日していたことを知った。そして今年は「食と被災」のテーマで料理の専門家を同道して、上野で避難住民のためのイベントを企画しており、その途次、拙宅に寄って何か料理を作って下さるとの思いもよらぬ企画を知らされたのである。
 こうして数日前(これも正確にはデータを調べればすぐわかるのだが今は大雑把に)のスタッフ五、六人(すみません、数えること忘れてました)とシシリアさんたち三人のスペイン人、と車2台でいらした。料理担当のミゲルさんとさんたちが台所で料理している間、やはり機構の顧問格の美術史家さんを交えての対談となった。しかしなにせこちらはしどろもどろのスペイン語のうえ難聴老人ときているから、とんちんかんな合いの手を交えながら料理ができるまでさんの流ちょうなフランス語通訳にも助けられて楽しい会話を楽しんだ。
 その際シシリアさんからいただいたウサギの絵がこれである。難聴でうまく話の流れが掴めなかったが、たぶんさんから美子がいつもナキウサギと一緒に寝ていることを聞かれて車中で書いてくださったのではないか。

 B5の大きさの和紙に描かれた兎の立ち姿で(どうしてか横向きになってしまった)、下方に「佐々木先生へ ハグと共に ホセ・マリア・シシリア」というサインがある。
 実は今まで彼についてはほとんど知らなかったのだが、今はネットで簡単に調べられる。以下はそのコピーである。少し長いが全文ご紹介しよう。

1954年 マドリード生まれ。
蜜蝋の支持体に、油彩で花や蝶のモティーフを描いた大画面の連作で知られる、現代スペインを代表するアーティスト。現在はパリとマヨルカを拠点に制作を続け、マドリード、パリ、ロンドン等でコンスタントに作品を発表している。
祖父の代から活躍した建築家のファミリーに生まれ、父の希望もあり建築を学ぶが、アートに対する強い欲求を抑えきれずサン・フェルナンド美術大学に進学し、アーティストの道を選ぶ。才能はただちに開花し、その表現主義絵画は アートシーンに強いインパクトを与え、大きな評価を得た。
20代後半の1980年代前半から、パリ(Galerie Crousel-Hussenot)をはじめ、ケルン(Galerie Rudolf Zwirner)やニューヨーク(Blum Helman Gallery)、ロンドン((Michael Hue-Williams)などの一流のギャラリーにおいて個展を重ね、数多くの美術館やギャラリーなどでのグループ展に数多く招請されるなど、アーティストとして大変恵まれた活動の場を与えられた。
また1986年には、ベニスビエンナーレにスペイン代表として招待されるという栄誉を受けた。80年代後半になると新たな表現形式の確立を目指し、 アーティスト独自のテーマ、”光のマティエール”探求へと向かい、1990年に 蜜ろうをシシリア独自の方法で絵画に蘇生することで表現領域を拡げ、現在の様式を 完成させた。マヨルカ島のジョアン・ミロ財団 “Fundació Pilar i Joan Miró a Mallorca” の オープニング企画展 (93年)、スペイン国立美術館 “Museo Nacional de Arte Reina Sofía” (97年) など母国の美術館での大掛かりな展覧会が開催され、国際的に大きな評価を得ている。
 日本国内では、1999年のタマダプロジェクトでの個展のほか、2008年には長崎県美術館にて日本国内では初めての展覧会が開催されました。

 凄い芸術家・画家ですね。ということはその日いただいたウサギちゃんの絵、値打ちものでっせ。我が家の宝にしなけれはなりません。ありがとう。
 ついでに、玄関での別れの際にさんに撮ってもらった写真がこれである。

※ 後日の追記 またもや持病の自画自賛病(egolatría)かと笑われそうだが、5年前の2013年9月14日に書いたシシリア論「魂の叫び」は再読に値する内容になっている。文中にも言っていることだが、まさに無手勝流の凄さ(?)がある。右の検索エンジンからも読めるが、『左膳、参上! モノディアロゴス第X巻』をお持ちならそこにも収録されているので、ぜひご一読、あるいは再読していただければ幸いである。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学など他大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、死去(享年79)
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思いがけない再会 への2件のフィードバック

  1. 阿部修義 のコメント:

     シシリアさんと先生のお写真と先生に贈られたシシリアさんのウサギの油彩画を拝見して、先生もお元気そうですし、美子奥様のお守りであるナキウサギということでウサギの絵を描かれたんでしょう。私の個人的な意見では先生の干支が卯年なので、もしかしたら日本文化にも詳しいシシリアさんが、そういう意味も込めてウサギを取り上げられたのではと想像しています。絵のことは素人の私ですが、周りを青と白で幻想的なイメージを作り上げ、淡いグリーンの中に躍動感のある白ウサギが画面から今にも飛び出して来るような生命そのものの迫力を感じます。具体的に目の部分を省略さてたことでウサギがより簡素化されているから私にはそう見えるのかも知れません。

  2. アバター画像 fuji-teivo のコメント:

    阿部修義様
     いつもの通りの深い読み、ありがとうございます。確かに私は兎年でした。そして兎の目の部分の省略の意味、気が付きませんでした。さすがですね。もしかすると阿部さんの解釈にシシリアさん自身もびっくりし感心するかも。

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