ハードとソフトの不思議な関係

 「プリント・カートリッジに問題があります」という表示が出た後、とつぜんプリンターが使えなくなった。純正インクは高過ぎるので、このところずーっと安い詰め替えインクを使ってきたのだが、もしかしてそれがHPすなわちヒューレット・パッカード社には面白くなかったのかも知れない。それで年を越したとたん、厳しく取り締まり出したのか。まさかとは思うが、しかしそれくらいの情報は簡単にキャッチできるかも知れない。
 いやそれはほんの冗談だが、困ったのは年賀状の書きかけや、珍しく新年早々、私家本の注文が入って印刷を始めた矢先だったことだ。表示を信じるとすれば、問題があるのはカラー・インクの方らしいから、この際純正インクを求めてセットすればプリンターが正常に戻るかも知れない。それで町の量販店Kに午後行ってみたのだが、純正インクの値段がアマゾンで買うより七百円ほど高いので、買わずに帰ってきた。つまりアマゾンでは2,499円で買えるのに、その量販店では正価に近い3,250円で売っていたのだ。
 まだ買い置きの詰め替えインクがカラー用3セット、黒インク7本が残っているので、なんとかHPのプリンター(Officejet H470)を続けて使いたいのだが、しかし今日注文した純正インクをセットしてもプリンターそのものが使えるかどうか保証の限りではない。そう考えて、この際新しいプリンターを買うことにした。いやHPのプリンターが使えるようになったとしても、いざという時のためにもう一台予備に買っておいてもいいのでは、と考えたのである。
 なんとも無駄な買い置きのように聞こえるかも知れないが、そこにはとんでもない事実があるのである。つまり純正インク2本分の値段で、そこそこのプリンターが買えるのだ。で、急遽追加注文することになったのは、キャノンのピクススiP2700。インク1セット付きで、なんと4,820円(送料・手数料無料)なのだ!
 ケータイ本体がときに無料に近い価格で手に入るのは、のちのちの使用料でがっぽり稼ぐ、あるいは稼がれるようになっているからだが、それと同じようにプリンターの方もインクでがっぽり稼ぐから印刷機本体をごく安い価格に設定しているのだろうか。どうもそのあたりの仕組みが分からない。
 ちょっとした文書印刷ならまだしも、私の場合は呑空庵というセミプロ(?)の出版を手がけているのだから、もっといい機種を選べばいいのかも知れないが、そこにも一つ落とし穴がある。つまり上級機種だとやたら設定が複雑になっており、ちょっとしたことですぐ機械がストップしてしまう。いま使っている機種も上級機種とは言えないが、それでも微妙な不具合を敏感に察知して、余計な(?)機能停止をやってくれるのだ。だから機能はシンプルで、良い意味でおおらか(?)なやつの方が、われわれにとっては好都合なのである。
 それにしてもハードが安いのか、それともソフトが高いのか、どうにも分かりかねる世の中である。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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