天気予報を見なかったが、今日は朝から小雨が降り、ふだんよりずっと早く暗くなった。外はまだ雨が降り続いている。まさか台風接近?…今年は台風も不規則な訪れ方をしたし、例年より寒さの訪れが早いような気がする。インターネットのおかげで、北の大地で農業をやっている友人ができたこともあって、気象情報には以前より敏感になったが、それでも生活がかかっていないだけ、このように……
実はそれよりも我が家の気象事情の方が雲行きあやしくなって、現在視界ゼロ。それで物分かりのいい親っかぶりは疲れた、もうやめにしたい、と思っている。親っかぶり、もちろん猫っかぶりのもじりである。で、子供の方もびっくりしたろう、物分かりのいい親は実は仮面で、素顔はなんのことはない「普通の」親バカであることに。先輩が親身になって相談に乗ってくれてます、という子供(どちらの?は秘密、何について?それも秘密)のメールに、いささか誇りを傷つけられた親バカは(これは私の方でーす)、こう反論する。「親身になる、というのは文字通り親の身になる、ということ。親以外のだれが真に親身になれますか」。これはもう言葉遊びを使っての愚痴以外のなにものでもない。
昔、人間学の授業で、デシーカ演じる『ロベレ将軍』を例に話したことを思いだしている。ロベレ将軍を騙る詐欺師が、いつの間にか民衆の祈りに感化されて、贋将軍であることを白状しないまま死刑台の露と消えた話である。つまりペルソナという言葉の語源がお面であるように、人はすべてなんらかの仮面をかぶっており、その仮面を最後まで誠実にかぶり続けるかどうかが勝負の分かれ道なのだ、という話。
あるいは真実とは何か、に対するウナムーノの言葉。「人間の発する言葉 [かぶるお面] が、その人間の内的判断、内的真実に合致する限りそれは真理となる」。ではそれが単なる思い込みだったとしたら…それは誤謬ではあろうが、人間を内部から腐敗させる虚偽ではない、から大した問題ではない……
いやー、要するに、時代がどう変わろうが、思想がどう教えようが、人生相談が何を諭そうが、子を思う親の真実は、ときにそれが頑迷固陋で、時代遅れのコンコンチキと思われようが、理屈ぬきのものであること。それが通らなくとも、歯軋りしながら子を思う己れの真実に賭けるしかないということ。(結局何を言いたい?親っかぶりの親の真実とでも?)。
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※本文中の太字、朱書き、アンダーライン、マーカー等の処理はすべて、死後、息子によって為されたものです。
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