人間的に問題あり

ちょっとタイミングが悪かった。寝る前に何気なしに点けた深夜番組で、今一番見たくない顔 [の持ち主] の演説場面に出くわしてしまったのである。怖いもの [嫌なもの] 見たさについ数分間 [も] 見てしまった。アメリカ中央軍の後方作戦本部(?)のあるフロリダのタンパというところらしい。いわゆるアメリカ風スピーチを意気揚揚とぶちあげる彼の後ろには、軍服(といっても略装)姿の若い兵士たちが何段にも並んで自分たちの親分の後姿を見ている。まてよ、この場面どこかで見たような……。
 不思議でならないのは、あの顔の動きとジェスチャー、目の動かし方と声の調子、はどう見ても人間的に大いに問題あり、のケースではなかろうか。別に坊主憎けりゃ袈裟まで憎い式に、彼の一挙手一投足すべてが胡散臭く見えてくるというのでもあるまい。心理学や性格学(?)にはずぶの素人にも、彼の内面性が露出して見えてくるのである。小さい時から周囲の目を気にしながら、しかもアメリカ的陽気さと率直さをことさら誇示する行動パターン、本当は気が弱く臆病、物事を徹底的に追求する胆力もないのに、そのふりだけを「僕怖くないもーん」と言いながら、ダディやグランパの顔色をうかがいつつ生きてきた男……いや、悪人ではなさそうだ、意地悪でもないだろう。このまま市井の人であれば、こういう男はそれなりに幸福な家庭人であったかも知れない。悲劇は、親父や周囲の取り巻きにおだてられて、ついには一国のトップにまで上り詰めたことである。それも集票カウントのミスで。
 どこかで見た光景……チャップリンの『独裁者』の中の演説シーンである。ただしチャップリンの独裁者はそれなりに自信に溢れていたが、ブッシュは内面の自信のなさがもろ透けて見える。これまで何人かの大統領を見てきたが、有能無能の評価は別として、素人考えの性格学からしても最低の大統領ではなかろうか。俳優上がりでどうかと思われたレーガンの方がはるか上に思えてきた。ともかくだれもが芝居じみているのは、大統領選挙方式そのものの中に欠陥があるようだ。
 それにしてもあれだけベトナム戦争で懲りたはずなのに、今また同じ轍を踏んでいるアンビリバボーな愚かさ。オルテガが言っているようにアメリカは大衆の天国であり、リンチ法発生の地である。「甘やかされたお坊ちゃん」の国の底の浅さが……いやいやそれに盲従するわが国の方がもっと悲惨なのだが…
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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学など他大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、死去(享年79)
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