ひ弱な反戦主義者

窓外の櫻の蕾がここ数日のあいだに一気に膨らんできた。しかし日中汗ばむほどの暖かさが続いたあと、今日あたりはまた寒さがぶり返している。わが家の暖房は、バッパさんのところは炬燵に大きなはめ込み式のガスストーブ、夫婦が住む旧棟は灯油のファンヒーターだが、縁側で仕事をするときにはさらにもう一つのファンヒーターを使う。今時、ガス、電気、灯油のいずれが一番安いのか、実はきちんと調べたことは無い。多分灯油が一番安上がりではなかろうか。
 その灯油が少しずつ高くなってきている。確か先日はリッター37円くらいだったのが、今日は41円になっていた。もちろんイラク戦争のせいであろう。車にしろ暖房にしろ、ここまで油に頼りきっている生活をしていて、この先どうなるのか。道産子なのに寒さに弱く(暑さにも弱い)、昔の人の生活を考えただけで背筋が寒くなるような弱虫である。だから清少納言が「冬は……火などいそぎおこして、炭もてわたるもいとつきづきし」と言っているが、その「つきづきし」が「嫌なことだ」くらいに思っていたのに、「ぴったりはまっている」とむしろ寒さを楽しんでいる風であり、それだけで尊敬してしまう。
 要するに、現代人は(私だけでない!)暖衣飽食の中で完全に身体組織が鈍(なま)ってしまっているのであろう。油が断たれてもしぶとく生き続けられるよう、少し生活スタイルを変えていこう。まず体重を落さなければ。ここ十数年、体重の増減はなく安定しているが、78キロを上下しているのは完全な肥満である(身長を言うとびっくりされるのでそれはやめておく)。しかしよくしたもので、重い肉を長年月運んでいると、それなりに慣れてくるもので……いやいや、言い訳はよそう。今のところどこといって悪いところがないのは僥倖以外の何物でもないと思わなくては。
 反戦を唱えていながら肥満体じゃ説得力に欠ける。アメリカを批判しながら油に頼りきった生活を続けているのは欺瞞のそしりを免れない。なーんて勇ましいことを言っているとそのうち二進も三進も(にっちもさっも)行かなくなるが、でも少しは努力しなけりゃ格好がつかない。その点、明治生まれのわが家のバッパさんは、全天候型戦闘機みたいにすこぶる頑丈で、ひ弱な息子夫婦が寒さで震え上がっている朝も、裸足で「あいよっ」などと土間に下りて平気な顔をしている。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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