午後クッキーのおしめや猫たちのご飯を買いにジャストに行った。帰り道、陸橋を登っていく先の空があまりにきれいなので、少しドライブしていこうか、ということになった。陸橋から続く道をまっすぐ進むと、高の倉ダムに行く道に出た。たぶん例年より取り入れが遅れているはずの稲穂が見渡す限り黄金色の絨毯を広げていた。開け放った車窓から入る風も、少し冷たいくらいではあるが実に気持ちがいい。三台ほど先を行く車があったが、登っていくにつれ最後は砂利運搬車らしいトラックだけになってしまった。下界はまだ陽が照っていたのに、道は次第に鬱蒼とした樹木のトンネルとなり、この先本当に視界が開け、ダムが現れるのか不安になってきたとたん、急に目の前が明るくなって、昨年の六月ころ娘を連れてきたときの場所に出た。深緑色の湖面は漣一つ立てずに森閑と静まりかえり、生物の気配さえ一切無い太古の時間を刻んでいるかと思われるほどであった。いちおう車の外に出てあたりの景色を眺めてはみたが、あまりの静けさに心細くなって早々に切り上げた。
帰り道、人里に近付くにつれまた嘘のように陽光があたりを照らしていて、いまさっき抜けてきたあの世界がほんとうに実在したかどうかさえ怪しくなってきた。
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※本文中の太字、朱書き、アンダーライン、マーカー等の処理はすべて、死後、息子によって為されたものです。
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