夕食後だから、腹を立てると消化に悪いのだが、今猛烈に腹を立てている。『福島民報』の「サロン」というコラムに、今日の最終回を入れて六回ほど短い文章を書いてきたが、毎回掲載紙をみるのが怖かった。つまり毎回、少しずつ文章がいじられていたからである。もっと正確に言えば、たとえば接続詞などが勝手に省略され、元の文意と微妙に違っているのだ。抗議するには誠に些細なこととも考えられるので、その度に、まっいいか、今回かぎりのつきあいかも知れないから、波風立てるにも及ぶまい、と抑えてきた。
しかし今回は、ファックスで原稿を送る際、これ以上不快な思いはしたくないので、「文字数制限以外の理由で文章を変える際は、一言ご相談ください。今回はそのためもあって一行減らしましたのでよろしく」と添え書きしておいたのである。さて今朝読んだときには、またもや一部の言葉が省略されていたことに気づいたが、文意そのものにさして変化はないので、いいや、これが最後だから、と忘れることにした。しかし、先ほど、夕食後、最後の段落を何気なく読み返し愕然とした。一部言葉が省略されてかなり文意が変わってしまっているのだ。その言葉をそのまま使ったとしても、スペース的には(嫌な表現だがちょっと便利)まだ余裕があるにもかかわらず。
支局に電話すると、こちらでは分からぬので明日本社の係りから連絡させます、との素っ気無い返事。何が問題なのかどうも分からぬらしい。ともかく何十人かの執筆者のうちには文章を書きなれない人もいて、校正係りはまるで子供の作文を添削するような気持ちで文章をいじっているのかも知れないが、しかし投稿ならいざ知らず、依頼原稿に対する基本的な姿勢があまりにもお粗末である。むかし島尾敏雄が九州の地方紙に送った文章が勝手にいじられて、温厚な彼としてもさすがに我慢出来ずに抗議したことを思い出したが、今回はそれに比べると抗議するにも当たらないかな、と考えてしまうほどの微妙な改ざんなのだが、だからこそますます腹立たしいのだ。ましてや私は島尾敏雄のような温厚さは持ち合わせていないときている。
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※本文中の太字、朱書き、アンダーライン、マーカー等の処理はすべて、死後、息子によって為されたものです。
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