スーパーで買ったお昼の弁当をどこか景色のいいところで食べようと思いながら、なかなかいいところが見つからず、とうとう大熊町に入ってしまった。こうなれば贅沢は言えず、幹線から脇道に入ってしばらく行った空き地に車を止めた。ちょっとわびしい感じもしないでもなかったが、今日は文句のつけようもない秋晴れ、遠くに見える山でも眺めながら食べることにした。
 その空き地の道路に面した角地に広告塔が立っているのに気づいた。土台はアルミ製のかなり立派な広告塔なのだが、そこに書かれている標語みたいなものを見て、とたんに気分が悪くなった。

地球にやさしいエネルギー原子力
人間にやさしい大熊町

 おいおいいつから原子力が地球にやさしくなったんだい。現今ではタバコでさえ「健康に悪い」と書かなければならない時代、どうしてこんなまやかしの言葉がまかり通っているんだ。せめて「油断すると地球を破壊して子々孫々までの禍根を残してしまいます。監視を怠らないようにしましょう」くらいの言葉を書いとけよ。
 標語の横にこう書かれていた。

「平成九年度 広報・安全等対策交付金事業」

 つまりこれは国の交付金で立てたというわけ、まさか! それとも東京電力の?
 いや交付金というからには、国のでしょう?
 事故隠しの前に書かれたこんな標語、恥じらいもなくよくもまあいけしゃあしゃあと。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学など他大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、死去(享年79)
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