「毎日新聞」によれば、全国の日本語学校の選抜に合格し、来年1月入学予定だった中国人就学生・留学生の9割以上が、法務省入国管理局に在留資格を不認定とされたということである。血も涙も無い、とはまさにこのことだ。福岡の事件のあと、もしかしてこういう事態が起こるのでは、と心配していたら案の定である。さすがにいろんなところから批判の声が上がっているらしいが、日中関係のみならず、広く世界との関係に確たる哲学を持たないでその場かぎりの対応しかできない日本という国のあり方が透けて見える。かつて日本の留学生がフランス人の女の子の死体を食べていたという猟奇的な事件の際、フランス政府は日本人留学生を締め出したろうか。一部分の不心得者の後ろに、多くの真剣で善意の中国人留学生がいることをけっして忘れるべきではない。
 自分が彼らの立場に立たされたらどう思うか。哲学以前の、人間として当然持つべき想像力の、この驚くほどの貧しさ。こうした了見の狭い対外政策は、ギンミーチョコレート(アメリカ追随外交)の小泉に平和哲学が不在であることと表裏一体をなしている。
 連日の不快なニュースにいちいち腹を立てていたら、それこそこちらの身が持たないけれど、この年の瀬になっていよいよ世の中おかしくなってきたぞ。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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