地方の銘菓ということで直ぐ思い出すのは、水戸の梅羊羹、柏屋の薄皮饅頭、などいくつかあるが(西日本については何も知らない)、昔食べて感激しながら長い間お眼にかかれなかったお菓子もある。平の「じゃんがら」である。
このところのバッパさんの言動(?)を心配して、しかし表向きは間もなく来るバッパさんの誕生日(な、なんと九十二歳になる!)を理由に、昨日、いわきの姉が日帰りで来てくれた。二、三週間見つからなかった銀行預金通帳が予想通りバッパさんの部屋から出てくるなど、いくつか成果があって満足して帰っていったのだが、その姉が土産に「じゃんがら」を持ってきてくれた。
なんと説明すればいいのだろうか、三笠山みたいな餡子のお菓子なのだが、皮の部分がもう少し硬くて、朝食であのパンの代わりにバターと蜂蜜で食べる…に似た…
お菓子の説明がどうしてこんなに難しいのだろう。もうやめた。ともかくそのお菓子の名前の由来を今回初めて知ったのである。「じゃんがら念仏踊りは石城地方に見られる郷土色ゆたかな行事で、安土桃山時代に磐城國出身の学僧袋中上人が創始し、江戸時代に名僧祐天上人がひろめた」。「じゃんがら」が踊りの名前から来ているということは漠然と知ってはいたが、今回初めて知ったのは、それが「自安我楽」(自ら安んじ我を楽しむ)と書くということである。どういう時代背景からそうした言葉が生まれたのかは知らないが、宗教が地獄や世の終わりという観念で人々の恐怖心を煽る時代があると思えば、逆に地獄・劫罰なにするものぞ、要は己れの幸わせであり欲望充足である、とまったく逆のメッセージを伝える時代もある。
どちらの思想も、それぞれの時代にあっては弱い人間に福音と聞きなせるということであろう。どちらの思想であれそれに頼りたい気持ちが分からないでもない。でも願わくは、煽られたり宥められたりしながら自分のあるべき姿、進むべき道を決めたくはないな(いいの、そんな勇ましいことを言って?)
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※本文中の太字、朱書き、アンダーライン、マーカー等の処理はすべて、死後、息子によって為されたものです。
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