じゃんがら

地方の銘菓ということで直ぐ思い出すのは、水戸の梅羊羹、柏屋の薄皮饅頭、などいくつかあるが(西日本については何も知らない)、昔食べて感激しながら長い間お眼にかかれなかったお菓子もある。平の「じゃんがら」である。
 このところのバッパさんの言動(?)を心配して、しかし表向きは間もなく来るバッパさんの誕生日(な、なんと九十二歳になる!)を理由に、昨日、いわきの姉が日帰りで来てくれた。二、三週間見つからなかった銀行預金通帳が予想通りバッパさんの部屋から出てくるなど、いくつか成果があって満足して帰っていったのだが、その姉が土産に「じゃんがら」を持ってきてくれた。
 なんと説明すればいいのだろうか、三笠山みたいな餡子のお菓子なのだが、皮の部分がもう少し硬くて、朝食であのパンの代わりにバターと蜂蜜で食べる…に似た…
 お菓子の説明がどうしてこんなに難しいのだろう。もうやめた。ともかくそのお菓子の名前の由来を今回初めて知ったのである。「じゃんがら念仏踊りは石城地方に見られる郷土色ゆたかな行事で、安土桃山時代に磐城國出身の学僧袋中上人が創始し、江戸時代に名僧祐天上人がひろめた」。「じゃんがら」が踊りの名前から来ているということは漠然と知ってはいたが、今回初めて知ったのは、それが「自安我楽」(自ら安んじ我を楽しむ)と書くということである。どういう時代背景からそうした言葉が生まれたのかは知らないが、宗教が地獄や世の終わりという観念で人々の恐怖心を煽る時代があると思えば、逆に地獄・劫罰なにするものぞ、要は己れの幸わせであり欲望充足である、とまったく逆のメッセージを伝える時代もある。
 どちらの思想も、それぞれの時代にあっては弱い人間に福音と聞きなせるということであろう。どちらの思想であれそれに頼りたい気持ちが分からないでもない。でも願わくは、煽られたり宥められたりしながら自分のあるべき姿、進むべき道を決めたくはないな(いいの、そんな勇ましいことを言って?)

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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