地産地消

最近テレビなどで「地産地消」という言葉が使われるようになってきた。辞書にはまだ載っていない。Wikipediaによれば、この言葉は、農林水産省生活改善課(当時)が1981年から4ヶ年計画で実施した「地域内食生活向上対策事業」から生じた、とある。そしてかなり詳しい説明がなされているが、要は字の通りなのだろう。つまりそれぞれの土地に住む人たちが、自分たちの健康に必要な食物を可能なかぎり自分たちの土地で作り、それを消費することを目指すこと。
 趣旨は大賛成である。それぞれの土地に産する食物が、その土地に住む人間にいちばん適した栄養を含んだものであるのが自然の摂理だからである。ただし現在のように流通機構が猛烈な勢いで進化してくると、地産地消の理想が追及しにくくなっている。遠隔の地で大量に製品化されたものが短時間で運ばれてくるため、地元での栽培や製品化が難しくなってしまうからである。
 福島県は果物の種類と数が多いと言われているが、たとえばスーパーで売られている果物のほとんどが他県で産出されたものである。数年前、八王子から越してくるときに大いに楽しみだったのは、たとえば地元でできる柿など腹いっぱいに食べることだったが、毎年売り場に並べられるのは、他県でできた形のいい、しかも高価な柿ばかりで、結局横目で見て通り過ぎるだけで、残念至極である。
 ところでいま毎食のように食べているのは清見オレンジである。290円で10個近くが買える。最近目に付くようになったオレンジで、どういう生い立ちなのかさっそく検索して見たら、次のように出ていた。

 「清見(きよみ)は温州みかん(宮川早生)と外国産のトロビタオレンジを交配させて作られた柑橘類の一種。収穫は、1~4月。静岡市清水区興津にある農林水産省果樹試験場興津支場(現・独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構果樹研究所カンキツ研究興津拠点)で作出された。1979年(昭和54年)に命名された品種名の「清見」は、近くにある清見潟(きよみがた)に由来する」。

 地産地消を応援したいけれど、温州みかんの甘さとオレンジの美味しさを合わせ持った清見オレンジには、とくにその安さには負けてしまう。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学など他大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、死去(享年79)
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