トリロジー(三つの語りのぶつかり合い)

資料館の寺田氏に、今日の午後まで講座のレジュメを送付する、と約束していたので、とりあえず以下のようなものを作ってみた。これで扱うべきテーマを網羅したとはけっして言えないが、少なくとも現在の私がなんとか究明したい問題点はならべてみた。このとおりに講義が進むはずもないが、とりあえずの里程標は設置した。進路変更とか細部の修正ならともかく、羊頭狗肉はつとめて避けたいとは思っている。


「今年度の主要テーマ 「文学と風土性の問題」


※なお本年度講座で対象とする作家は、従来の埴谷雄高と島尾敏雄のほかに、彼らと深い交流のあった小川国夫を加えます。

  1. はじめに 埴谷雄高と島尾敏雄の誕生とその幼年期、台湾と相馬
  2. 習作時代 才能か資質か
  3. 戦後文学の中の位置 左翼体験と戦争体験
  4. なぜ書くか(人はいつ作家となるか)彼ら自身の証言
  5. いかに書くか 方法としての「夢」 埴谷・島尾・小川それぞれの特徴
  6. 外国文学からの影響 埴谷とドストエフスキー 島尾と中国文学
  7. 時代と論争 スターリンと「ちっぽけなアヴァンチュール」
  8. 代表作誕生の道筋Ⅰ 『死霊』の場合
  9. 代表作誕生の道筋Ⅱ 『死の棘』の場合
  10. 旅の思想 島尾敏雄とロシア・ポーランド 小川国夫と地中海世界
  11. ? 文学と風土性 島尾敏雄のヤポネシア論と“東北” 小川国夫と “故郷”

 これまでと大きく違うのは、講座の主要回転軸の一つに小川国夫を取り入れたことであろう。戦後文学あるいは現代日本文学の流れの中で、埴谷雄高、島尾敏雄、そして小川国夫という三人の文学者の出会いと相互影響は、けだし奇跡的なと言ったら少し大袈裟であろうが、しかし稀有な、そして豊穣な文学的・思想的な渦を、埴谷流に言えば坩堝あるいは渦動を形成したことは間違いない。これを戦後文学あるいは現代日本文学のトリロジー(Trilogy)(つまり三つのロゴス< 語り>のぶつかり合いという意味で)と名づけてもいいであろう。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学など他大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、死去(享年79)
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