この二日間、いや三日間だろうか(なんだか時間の感覚が無くなってしまった)、バッパさんの本作りに没頭していた。別に急ぐこともないのに、まるで憑かれたように、毎日暇を見つけては、というより暇も作らず、ただひたすら印刷し、印刷された紙を二つ折りにし(つまり袋綴じにし)、背をそろえて「製本屋さん」というネットで買い求めた金具にネジで固定し、よく糊が付くように付属の鋸ナイフで背に切り目をいれ、その上に木工ボンドを満遍なく塗って、乾いたら厚手の模造紙の表紙をつける、という単純作業に没頭していたのである。
出来上がったら各地の身内に冊子小包で送ったのだが、数えてみたら、今日まで合計16冊作った勘定になる。これで一段落ついたので、あとは必要に応じて、今度は暇をみつけて、そのつど作っていくことにする。
そんなわけで製本屋に徹していて、肝心の文集そのものをゆっくり読む機会もなかった。しかし今日、落丁がないかの糊付け前のチェックで、「初デート」などドッキリするような言葉が目に飛び込んできた。10年ほど前、何の病気だったのか、しばらく入院したときに書いた「わが生涯の小道を辿って、短歌でつづる私の足あと」と題する短歌集(?)の途中にあった「出合い」と題する四つの歌の脚注(?)にあった言葉である。ついでだから四つとも紹介する。
白絣(かすり) 黒の兵児帯 下駄ばきの
夫(つま)と出合いし 夏の夕べに
人目さけ それぞれ乗りて降り立つは
客足のなき新地駅なり(はじめてのデート)
砂浜の砂を踏みつつ従いし
二人の他に人影もなし
雷鳴と驟雨に遭いて行く末の
不安の予感おそれつつ帰る
バッパさんに言い渡したように、短歌というより短歌もどきの四首ではあるが、歴史的(?)事実はしっかり記録されている。あーそうだったんだ、二人の初デートは新地で、せっかくのデートなのに雨に祟られたんだ、などなど今まで聞いたこともないような親たちの青春の一齣、確かに教えていただいた。
新婚時代を歌った次のような歌もある。
ささやかな新居は村に一つだけ
揚げ窓のある洋館なりき
懐妊を知りて夫は休日を
たんぼの堀に鮒を掬へり
そうだねー、珍獣(いやわざと間違えました、本当は珍壽です)のバッパさんにも青春があったわけであります。