臈たしアナベル・リイ(一)

中国語に訳されたという大江健三郎のその最新作『臈たしアナベル・リイ…』(長ったらしいので前半部だけにする)はまだ読んでいない。従来の私小説とは、たぶん根本的に違うであろう彼の小説、つまり作家の個人的体験を、思いもかけないメタファーによって、同時代や世界といささか強引に結びつけてしまうような彼の小説は、実はこれまでまともに読んでこなかったのではあるが、充分に刺激的で魅力的であると思ってきた。それならここらでまともに読んでみようか。
 それにしても、最近の彼の作品についての知識がほとんどないので、ウィキペディアの説明を読んでみる。

 「1995年に『燃えあがる緑の木』が完結。当初大江はこの作品を自身の「最後の小説」としていたが、1996年、武満徹の告別式の弔辞で新作を捧げる発言をし、1999年の『宙返り』で執筆活動を再開した。以降の創作活動は大江自ら「後期の仕事(レイト・ワーク)」と読んでおり、伊丹十三の死をうけて書かれた『取り替え子』(2000年)、それに続く『憂い顔の童子』(2002年)、『さようなら、私の本よ!』(2005年)は、「スウード・カップル(おかしな二人組)」が登場する後期三部作として位置づけられている。三部作最後の『さようなら、私の本よ』では、三島由紀夫と戦後の問題を自身の人生と重ね合わせ、デビュー作の『奇妙な仕事』に回帰するという複雑な構成を取った。三部作をはさんで2002年には、自身の唯一のファンタジーとして児童向けに『二百年の子供』を発表している。最新作は『新潮』連載の『臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ』(2007年)である。」

 なるほどそういうことか。それなら最新作から逆に読んでいこうか、と思ったが、ネットの古本屋にはまだ『臈たしアナベル・リイ…』は出ていない。新刊本で買うのはちょっとお金がもったいない、ここは我慢して古本屋に出回るまで待つことにしよう。しかしここで思い出したのは、一昨年の「新潮」が島尾ミホさんの追悼をした六月号(このときは小川国夫さんと映画監督の小栗康平さんが書いている)から、大江健三郎の『臈たし…』の短期連載が始まったことである。探してみると、序章と第一章が掲載されている。とりあえず読んでみよう。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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