これはまさにお上主導の兵糧攻めだ!


☆ 四月二日午後四時五十分の追記

 四時ごろ急に思い立って、というか家の中にばかりいるのに飽きて、妻を後部座席に乗せて市内見物に出かけてみた。先日と同じくたくさんの車が行き交っている。駅前のコンビニで、切らしていたガムを買った。クロレッツ(さわやか続く!30分)というやつである。歳のせいか口が渇くためだが、他のガムだと柔らかすぎて入れ歯にくっつく。ちょうどいい硬さのガム。
 ついで駅前広場に出る。相変わらず常磐線は不通で、あたりは閑散としている。それから跨線橋を渡って六号線に出よう、津波現場を見ておこう、と思ったが、さすがまだ見る勇気はない。
 べつだんその必要はなかったが、半分ほどあるガソリン・タンクを満タンにしようとスタンドに寄ってみた。先客は二台ほどで、すぐ自分の番になった。リッター165円、これまでより高いが、予期していたほどでもない。
 市民生活は明らかに始まっている。なのに政府は相変わらずこの地域に自主避難を促している。冗談じゃない! 菅総理は今日、被害地を巡回したらしい。南相馬に来れば良かったのにー! ヘリコプターから恐るおそる降り立って、長閑な光景を見て、間違いなくこう叫んだだろう、「ありりー、ボクちゃん間違えたかも。およびじゃない!これまったスッツレイ!」 植木等と加藤茶の口調を真似たつもり。

〇以下は、屋内退避指示地域への郵便物が届かない現状に対してメールなどで嘆願(抗議)していただきたいとの要請に応えてくださった方への、日本郵便からの三度にわたる返答である。1. と 2. はまったくの同文であり、クレームに対するマニュアルがすでにできていることを示している。注目すべきは 3. の★印に囲まれた部分である。つまり今回の事態が、政府主導のものであることをはっきり示しているのだ。自主避難を加速させるための布陣である。ところが実際は、当該地域住民の八割~九割が既に地域に戻って必死に市民生活を再開しているのである。どうかこの迷妄から抜け出すよう、しかるべき機関、政府要人に働きかけてくださらんことを。


  1.  郵便事業株式会社お客様サービス相談室センター小原でございます。
     再度ご連絡いただき、まことに恐縮でございます。
     お申し出につきまして、「福島県南相馬市」は福島原子力発電所事故に伴う避難指示エリアおよび屋内退避指示エリアなどの地域、車両通行制限、立ち入り禁止地域、当社施設の被災などにより、配達ができない配達困難地域が生じております。避難所等が設けられている場所には配達先を調査の上、配達に最大限の努力をいたしますが。引き受けた郵便物をやむを得ずお返しせざるを得ない場合がありますことをご理解賜りますよう、よろしくお願いいたします。


  2.  再度ご連絡いただき、まことに恐縮でございます。小板橋に代わり、返信申し上げます。
     お申し出につきまして、「福島県南相馬市」は福島原子力発電所事故に伴う避難指示エリアおよび屋内退避指示エリアなどの地域、車両通行制限、立ち入り禁止地域、当社施設の被災などにより、配達ができない配達困難地域が生じております。避難所等が設けられている場所には配達先を調査の上、配達に最大限の努力をいたしますが、引き受けた郵便物をやむをえずお返しせざるをえない場合がありますことをご理解賜りますよう、よろしくお願いいたします。
     現在、業務の正常化に全力を尽くしておりますので、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。


  3.  お客様のメール拝見いたしました。
     この度は、福島県あての郵便物等の送達におきまして、ご迷惑をおかけするとともに、ご不審な思いを抱かせてしまい、誠に申し訳ございません。
     原町支店の営業状況につきましては、弊社といたしましても、★行政からの屋内退避指示などに従っている★ところであり、大変恐縮ではございますが、業務再開については現在までのところ未定になっております。なお、この度のお客様からのお申し出につきましては、当センターより関係部署に申し伝えさせていただきます。ご不便をおかけすることとなり、誠に申し訳ございませんが、何卒ご理解賜りますよう、お願い申し上げます。(★印引用者)

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学など他大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、死去(享年79)
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