虹を繋ぐ

★緊急のお知らせが右の私のコメントにありますので、どうぞご覧下さい。

美子と私の読書遍歴を踏まえてというか、その二人の果たせなかった夢や希望を受け継いでくれる次代の若者たち、なーんて大袈裟で、取りあえずは子供たちや孫たちが引き続いて読んでくれるようにとの願いをこめて、連日、例の古本蘇生術に精を出している。このところ力を入れているのは、主に美子が途中まで読んで中断したままの本を補充することである。ほとんどが文庫本なのだが、たとえば先日の『テス』のように上巻だけしか残っていない作品の続きをアマゾンから安く手に入れ、完本になったところで合本にし、世界に一つしかない布装丁の美本にすること。
 で、思わせぶりな表題は、D. H. ローレンスの『虹』(中野好夫訳、新潮文庫) がどうしたことか上巻と下巻のみで中巻が欠けていたのを、今回めでたくアマゾンで見つけて完本にすることできた、つまり虹の両端を繋いだとの意味である。
 ローレンスのものは他にも『完訳チャタレー夫人の恋人』(伊藤整訳、新潮文庫、1996年)など数冊あるが、私にはローレンスの文明批評家としての側面に興味がありながらこれまで読む機会が無かったので、今回ついでに『黙示録論――現代人は愛しうるか』福田恒存訳・解説の筑摩叢書版も注文した。
 などとそれこそ内容の無い(つまり作品の内容に触れないままに)話を始めたところ、自民党新総裁に安倍晋三が選出されたとのニュースを知り、いささかどころか大いに危機感を覚えているのである。石破茂か石原伸晃が選ばれた方が良かったなどと思っているわけではないが(つまりどちらにしても嫌な政治家であることには変わりが無いので)、安倍晋三はまずい。
 つまりだらしない民主党政権を応援するつもりなど無いが、しかし今の自民党よりかは少しはマシであり、石原や石破が総裁の自民党なら僅差で政権を渡さないのでは、と思っていたのだが、この安部晋三はちと難物である。つまり民主党は負けるかも知れない。すると「強い日本、美しい日本」といった意味の分からぬ、しかしきわめて危険なスローガンに攪乱される恐れが出てきたということである。集団自衛権の行使、首相の靖国参拝など首相在任当時に果せなかった宿願を今度は決行すると息巻いている。息巻いてる? いやそうじゃないからかえってアブナイんだなー。以前この人のことを御曹司呼ばわりしたことがあるが、いかにも育ちがよさそうで、大事な文言など舌足らずに部分的に飲んじゃうところなど、見方によればカワイイなどと見えるかも知れない。しかしなんとも危険な人物だ。
 そんな折、午後の郵便で「九条科学者の会」から講演会などの知らせと寄付のお願いが届いた。今まで地元の九条の会に美子と一緒に入っており、年会費千円も二人分きっちり払ってきたが、先日思うところがあってそこを退会した。そうだ、その代わりこれからその分を「九条科学者の会」に寄付することにしよう。
 つまりこんなことで危険な流れを食い止める手立てになどなるはずもないが、でもせめて九条の会にでも頑張ってもらわなくては、と本気で考え始めたのだ。いや冗談じゃなく、日本はいまどんどん危険な傾斜を深めつつありますぞ。どんどん右傾化している。何それは考えすぎ? 甘いっすなー。あゝそうか、君もサムライ日本、強い日本を待望してるのか、だったら話す気にもならない、まっ勝手にやってくれ!
 つまりだね「強い」日本じゃなくてディーセントな、ぴったりな訳語は無いけど、要するに「品位ある」日本を目指すべきだと思うんだけどな。何? 君にディーセントなんて言葉使ってもらいたくないだって?…そう言われれば面目次第もございません。でもねー今日たまたま鶴見俊輔と司馬遼太郎の「《敗戦体験》から遺すべきもの」という対談を読んでいたんだけど、日本人は敗戦体験から大事なものを見落としたまま今日に至っているというのが諸悪の根源にあるようだ。
 終戦のみならず 3.11 を体験してもなお日本人は眼を覚ましていない。こんな日本のまま死んでいくのはイヤだなー、なんとかならないかな。だんだん暗い考えに落ち込んでいくよ。文庫本を補充して「虹を繋ぐ」なんてタワケたことを言ってる場合じゃありませんぞい、まったく!

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学など他大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、死去(享年79)
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虹を繋ぐ への6件のフィードバック

  1. 川島幹之 のコメント:

    初めまして。いつも拝読させていただいています。
    安倍総裁出現の危機感が、総裁選前から心配していた私の考えと同じだったので、初めて感想を書かせていただきました。
    「憲法改正(改悪ですが)」を前面に打ち立てた安倍氏は、派閥力学からいっても当選確実なのに、新聞はなぜか石破×石原対決をあおり、憲法の危機に知らんぷりでした。
    私も憲法改悪阻止を今から始めないと間に合わない、と危惧しています。次の総選挙で万一安倍(出戻り)内閣が誕生し、同じく憲法改正(こちらも改悪ですが)を標榜している維新の会とで議員の3分の2を占めたら、危機は一気に現実化します。
    私も流れを食い止める手立てを持っていませんが、せめて「九条を守る会」への寄付なり、参加なりをすることにしました。

  2. アバター画像 fuji-teivo のコメント:

    川島幹之さん
     コメントありがとうございます。私の安部評で肝心な「憲法改悪」のことうっかり抜かしてました。私も同様の危機を感じてます。いままで仲間を集めてなどといったことはやったことはないのですが、今回だけはできるだけ多くの人に話しかけ、迫っている危険をなんとか防ぐ手立てを皆で考えなければと思ってます。
     それからこれとも関係ありますが、最近の領土問題に関して徐京植さんから以下のような回状が届きました。内容・趣旨に関して私も同感ですが、皆さんにもお知らせした方がいいのでは、思いますので、そのままコピーします。お読みになって、賛成なら発信者あてにご連絡していただければと思います。よろしく。
    ★岡本さんのメールアドレスは **** です。

    > 皆さん 「世界」元編集長岡本厚さんからのメールをお送りします。もしよけ
    れば、> 賛同の意を彼に伝えて下さい。  坂本義和
    >
    > Forwarded by Yoshikazu Sakamoto
    > ———————– Original Message ———————–
    > From: 岡本厚
    > > Date: Mon, 24 Sep 2012 22:10:01 +0900 (JST)
    > Subject: 領土問題声明
    > —-
    >
    >  各位
    >
    >  「世界」前編集長の岡本です。ご無沙汰しています(していない方もおられ
    ます)。

    >  最近の日韓、日中の「領土問題」、深刻な状況だと思います。これに対し、
    日本の中> から、 ナショナリズム以外の「別の声」を出さなければいけないのではないか、とジャーナリ スト、 弁護士、研究者、市民活動家の方々と相談し、添付のような声明を作りました。
    >  先週末からそれぞれが賛同を集めてネットで流し始めたところ、思いもかけ
    ぬほどの 賛同 が集まりつつあります(2日で300名以上)。
    >  私も関わりのあった方々に連絡し、賛同を募る次第です。他に転送して賛同
    を得てい ただ いても構いません。大江健三郎さんから、八重山の一市民まで。
    >  27日までに集約して私宛に送ってください。肩書(適当なものがなければ
    「世田谷 区民」 でも構いません)もお願いします。
    >
      「領土問題」の悪循環を止めよう!
    ――日本の市民のアピール――              2012年9月28日

     1、「尖閣」「竹島」をめぐって、一連の問題が起き、日本周辺で緊張が高まっている。2009年に東アジア重視と対等な日米関係を打ち出した民主党政権の誕生、また2011年3月11日の東日本大震災の後、日本に同情と共感を寄せ、被災地に温家宝、李明博両首脳が入り、被災者を励ましたことなどを思い起こせば、現在の状況はまことに残念であり、悲しむべき事態であるといわざるを得ない。韓国、中国ともに日本にとって重要な友邦であり、ともに地域で平和と繁栄を築いていくパートナーである。経済的にも切っても切れない関係が築かれており、将来その関係の重要性は増していくことはあれ、減じることはありえない。私たち日本の市民は、現状を深く憂慮し、以下のように声明する。
     2、現在の問題は「領土」をめぐる葛藤といわれるが、双方とも「歴史」(近代における日本のアジア侵略の歴史)問題を背景にしていることを忘れるわけにはいかない。李大統領の竹島(独島)訪問は、その背景に「従軍慰安婦」問題がある。昨年夏に韓国の憲法裁判所で出された判決に基づいて、昨年末、京都での首脳会談で李大統領が「従軍慰安婦」問題についての協議をもちかけたにもかかわらず、野田首相が正面から応えようとしなかったことが要因といわれる。李大統領は竹島(独島)訪問後の8月15日の光復節演説でも、日本に対し「従軍慰安婦」問題の「責任ある措置」を求めている。
    日本の竹島(独島)領有は日露戦争中の1905年2月、韓国(当時大韓帝国)の植民地化を進め、すでに外交権も奪いつつあった中でのものであった。韓国民にとっては、単なる「島」ではなく、侵略と植民地支配の起点であり、その象徴である。そのことを日本人は理解しなければならない。
     また尖閣諸島(「釣魚島」=中国名・「釣魚台」=台湾名)も日清戦争の帰趨が見えた1895年1月に日本領土に組み入れられ、その3カ月後の下関条約で台湾、澎湖島が日本の植民地となった。いずれも、韓国、中国(当時清)が、もっとも弱く、外交的主張が不可能であった中での領有であった。
     3、日中関係でいえば、今年は国交正常化40年であり、多くの友好行事が計画・準備されていた。友好を紛争に転じた原因は、石原都知事の尖閣購入宣言とそれを契機とした日本政府の国有化方針にある。これは、中国にとってみると、国交正常化以来の、領土問題を「棚上げする」という暗黙の「合意」に違反した、いわば「挑発」と映っても不思議ではない。この都知事の行動への日本国内の批判は弱かったといわざるをえない。(なお、野田政権が国有化方針を発表したのは7月7日であった。この日は、日本が中国侵略を本格化した盧溝橋事件(1937年)の日であり、中国では「7.7事変」と呼び、人々が決して忘れることのできない日付であることを想起すべきである)
     4、領土問題はどの国のナショナリズムをも揺り動かす。国内の矛盾のはけ口として、権力者によって利用されるのはそのためである。一方の行動が、他方の行動を誘発し、それが次々にエスカレートして、やがて武力衝突などコントロール不能な事態に発展する危険性も否定できない。私たちはいかなる暴力の行使にも反対し、平和的な対話による問題の解決を主張する。それぞれの国の政治とメディアは、自国のナショナリズムを抑制し、冷静に対処する責任がある。悪循環に陥りつつあるときこそ、それを止め、歴史を振り返り、冷静さを呼びかけるメディアの役割は、いよいよ重要になる。
     5、「領土」に関しては、「協議」「対話」を行なう以外にない。そのために、日本は「(尖閣諸島に)領土問題は存在しない」といった虚構の認識を改めるべきである。誰の目にも、「領土問題」「領土紛争」は存在している。この存在を認めなければ協議、交渉に入ることもできない。また「固有の領土」という概念も、いずれの側にとっても、本来ありえない概念といわなければならない。
     6、少なくとも協議、交渉の間は、現状は維持されるべきであり、互いに挑発的な行動を抑制することが必要である。この問題にかかわる基本的なルール、行動規範を作るべきである。台湾の馬英九総統は、8月5日、「東シナ海平和イニシアティブ」を発表した。自らを抑制して対立をエスカレートしない、争いを棚上げして、対話のチャンネルを放棄しない、コンセンサスを求め、東シナ海における行動基準を定める――など、きわめて冷静で合理的な提案である。こうした声をもっと広げ、強めるべきである。
     7、尖閣諸島とその周辺海域は、古来、台湾と沖縄など周辺漁民たちが漁をし、交流してきた生活の場であり、生産の海である。台湾と沖縄の漁民たちは、尖閣諸島が国家間の争いの焦点になることを望んでいない。私たちは、これら生活者の声を尊重すべきである。
     8、日本は、自らの歴史問題(近代における近隣諸国への侵略)について認識し、反省し、それを誠実に表明することが何より重要である。これまで近隣諸国との間で結ばれた「日中共同声明」(1972)「日中平和友好条約」(1978)、あるいは「日韓パートナーシップ宣言」(1998)、「日朝平壌宣言」(2002)などを尊重し、また歴史認識をめぐって自ら発した「河野官房長官談話」(1993)「村山首相談話」(1995)「菅首相談話」(2010)などを再確認し、近隣との和解、友好、協力に向けた方向をより深めていく姿勢を示すべきである。また日韓、日中の政府間、あるいは民間で行われた歴史共同研究の成果や、日韓関係については、1910年の「韓国併合条約」の無効を訴えた「日韓知識人共同声明」(2010)も、改めて確認される必要がある。
     9、こうした争いのある「領土」周辺の資源については、共同開発、共同利用以外にはありえない。主権は分割出来ないが、漁業を含む資源については共同で開発し管理し分配することが出来る。主権をめぐって衝突するのではなく、資源を分かち合い、利益を共有するための対話、協議をすべきである。私たちは、領土ナショナリズムを引き起こす紛争の種を、地域協力の核に転じなければならない。
     10、こうした近隣諸国との葛藤を口実にした日米安保の強化、新垂直離着陸輸送機オスプレイ配備など、沖縄へのさらなる負担の増加をすべきでない。
     11、最後に、私たちは「領土」をめぐり、政府間だけでなく、日・中・韓・沖・台の民間レベルで、互いに誠意と信義を重んじる未来志向の対話の仕組みを作ることを提案する。
     

  3. 松下 伸 のコメント:

    見てます。
    同感です。
           梁塵

  4. アバター画像 fuji-teivo のコメント:

    松下 伸さま
     おやまあ、お久しぶり! お元気でしたか、嬉しいですね。ようやく涼しくなってきましたが、贅沢なもので、今度はなんだか心細くなってきました。みちのくの秋は本当に釣瓶落としのように急速に進みます。でもお互い、元気で頑張りましょう、いや楽しくやっていきましょう。

  5. 松下 伸 のコメント:

    八十五才の認知症の母を介護しています。
    なかなか、思うように参加できず、申し訳ありません。

    今日はよい声がふたつ聞けました。
    先生の「みちのくの秋」。
    3,11以来わたしも「みちのく」の語にずっと拘っていました。
    この語には、何か奥深い謂れがあるのでは?
    芭蕉の「おくの細道」も、これでしょうか・・?
    不思議にも、美濃大垣(不破の関ー東山道の始め)の秋の句で終わってますね。
    よく分かりませんが、何か?言問いされているような・・

    A新聞に村上春樹の寄稿がありました。
    久しぶりに文字を追いました。
    うれしかったです。
    けたたましい言説のみの昨今のマスコミ。
    静かな魂の言説に心が鎮まりました。

    煽動者の威勢のよい大声・・
    確かに傷つくのは、それを聞かされた方です。
    ただ煽るだけの政治家や論客たち。
    でも、静かな姿勢、低い重心こそ今欲しいものです。

    東京にも大阪にも、いますね。
    キツツキのようにケタタマシイのが・・
    一票の重さと、恐ろしさを思います。
    「みちのく」の、静かな声に
    真の魂の声を・・
    久しぶりで、すこし大げさですね。
    でも、うれしかったです。
    「みちのくの秋」と村上さん。
                       梁塵

  6. 川島幹之 のコメント:

    先のコメントは実は、パソコンが不調で送信できていないと思っていました。
    思いがけずにご返事をいただき、ありがとうございます。
    また、「世界」元編集長の岡本厚さんからのメールも拝読しました。
    まったく同感です。こちらもありがとうございます。
    ずうずうしくも、岡本さんに賛同のメールを差し上げたいと思います。
    今日の朝日新聞デジタルによると、安倍総裁が演説で「尖閣諸島(沖縄県石垣市)について『これを守るには物理的な力、海上保安庁、海上自衛隊。守りをちゃんとしていることを担保する法制度を作っていく』と述べ、中国に対抗するため海保と海自の連携を強める法整備が必要との認識を示した。」とありました。もはや妄言としか言えません。
    こうした人物を再び首相にしてはいけない、と改めて感じました。
    私はこの8月いっぱいで退職しました。老後(自分ではそうは思っていないのですが)の生活に「憲法を守る」という、やるべきことが見つかりました。

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