「なんだか疲れた顔してるね。どうした?」
「いやさね、一昨日、何年ぶりかの遠出をして、ちょっちゅ疲れた、まだ疲れが取れない」
「そりゃ歳のせいだわ。県立美術館のシシリア展オープニングに西内さんと出かけたんだろ?ラホイ首相、佐藤県知事、名前が出てこないけど福島市長、それに原発事故の際に最前線で対応に貢献したとしてスペイン政府から<アストゥリアス皇太子賞>を受賞した警察官と自衛隊員、消防職員の5人も臨席してなかなかの盛会だったそうじゃないか」
「その制服組の5人の盛装姿もそうだけど、わが友西内さんを初め、男性は私を除いて全員ネクタイ着装なので、ありゃりゃと思ったけど、開会の前にスペイン側スタッフの二人の美人が私を見つけて歓迎してくれたり、主役のシシリアさんが強くハグしてくれたので、これでいいのだ、と堂々と胸張って……」
「堂々と胸張って、とわざわざ言うところがまだ人間できてないなー。普段着がわが盛装と、もっと自信を持って」
「そうだね。ネクタイなんざ、まあ言ってみれば私はどこどこ藩の禄を食んでる者です、てことの象徴みたいなものだものね。つまりサムライの月代(さかやき)みたいなもの。佐々木小次郎も拙者は主取り(しゅうどり)してませぬので、とかたくなに月代にすること断っていたしね」
「なんじゃそれ、まさか相馬の小次郎気取りじゃあるまいね」
「つまり、いま村上元三の『佐々木小次郎』を読んでいるんだけど、途中琉球王族の奈美っちゅう美しい娘が出て来てね…」
「おぬしの話はころっころ変わるね。それ知ってるよ、佐喜眞美術館のかな恵さんによれば奈美っていうのは当て字で、本当はナビィと延ばして発音するそうだよ」
「おぬしなぜそんなことを…あゝそうか、おぬしは拙者で、拙者はおぬしか」
「そういうこと」
★ その上間かな恵さんによれば、沖縄の様な高温多湿の亜熱帯でネクタイは拷問に近いので、現在では、男性は通勤はもちろんのこと沖縄の冠婚葬祭はほとんどアロハのような「かりゆしウェア」でノーネクタイでOKです、ということです。
「話はまた飛ぶけど、最近、元首相の小泉さんがしきりに反原発を訴えてるらしいね」
「小沢さんが言うならまだしも、小泉さんよく言ってくれるね、いやよく言ってくださいました、の意味だよ」
★ 10月1日、名古屋市内で講演し「核のゴミの処分場のあてもないのに原発を進める方がよほど無責任」「今こそ原発をゼロにする方針を政府・自民党が出せば、世界に例のない循環型社会へ結束できる」などと述べ、脱原発への政策転換を訴えた。朝日新聞デジタル
「貞房さんがずっと主張してきたことを、さては小泉、拙者の主張をどこかで盗んだな」
「まさか、それは絶対ありえないけど、ともかく今の自民党指導者たちよりまともな頭してるね」
「要するに覚悟だよな」
「覚悟って?」
「つまり原発が無くなったらどうすっぺ、と先行きの不安を次つぎ足し算していったら、際限無く危険な深みにはまっていくということ、今の政権がやってることはその無限不安スパイラル」
「そうっ、このところ話題にしてきた本当のサムライの精神に倣って、先ず死を、無を覚悟して、そこから逆算して、つまり引き算してしっかり足元を固める生き方をしなくちゃ」
「貴殿なかなかの腕前しとるな、しておぬしの流派は?」
「天下無双の無手勝流よ、グアハッハッハ!!!」
『モノディアロゴスⅦ』を読んでいて永井隆博士という名前が出て来て検索していましたら、こんなことを言われています。
「己の如く人を愛せよ」(如己愛人)
原発再稼働を推し進めている自民党の閣僚の方たち、経済界の首脳陣に福島在住の方はいるのでしょうか。原発事故で家族が離散されている多くの人たちのことを私たちは深く、深く考えるべきだと思います。永井博士のことを読んでいましたら感動しました。
先生は原発問題は人間の生き方に関わっている問題だと言われています。先生の言われている「覚悟」は俄かに、一朝一夕に出来るものではなく、毎日の生き方から長い時間をかけ、少しずつ輪郭が形成され、真摯に、そして真剣に人生と向き合って初めて「覚悟」を持てるんだと私は思います。永井博士は言葉だけの人ではなく、生涯「己の如く人を愛された」言行一致の人でした。こういう偉大な先人に私たちは謙虚に学び、その謦咳に接することが、今の時代に必要だと思います。