それ見たことか!

特定秘密保護法案可決、こういう筋道になることは分かってはいたが、一言でいえば暗澹たる気持ち、あるいは埴谷雄高大先輩の言を借りれば、ただただ「グレーツ!」。
 こちとら政界事情にからっきし疎いから、なんで少子化担当大臣がこの法案の担当大臣になっているのか分からなかったが、要するに安倍首相の側近(懐刀?)で弁護士出身だからだろう。というより、このいささかハードな法案をソフトに乗り切っちゃえ、とのしたたかな、というかあざとい浅知恵を働かせたのかも。この辺の事情は我らの上出弁護士に説明してもらいたいが、ともかくこの雅子ちゃん、おとこ顔負けの豪腕ぶり、というか鉄面皮ぶり。
 いまおとこ顔負けなんて言ったが、世の男性諸君、というより世の亭主族なら先刻ご承知のとおり、女性はある瞬間を境に、まるで鋼鉄で固めたように、梃子でも動かなくなる特技をお持ちです(うちの美子ちゃんはそんな特技持ってませんでしたが)。
 確か雅子ちゃん、このあいだの参院選でわが福島区からサギまがいの選挙戦でぶっちぎり首位当選したおばちゃん、おっと失礼、お姉ちゃんだろ? 今さら詮無いことだが、この人選んだの原発被災地の皆さんでっせ(と関西弁にする必要ないか、元い)おめえたちだべー! 
 法案成立した以上、いますぐ何とかすることは出来ないが、しかしこの強行採決が命取りになって安倍政権の崩壊を早めたと言える道筋をつけるべく、じっくり、執拗かつ強烈に、しかもいま流行の言葉を使えば「スピード感をもって」(あゝ汚ねー言葉!)包囲網をせばめていく必要がある。
 それにしても、とさっそくとばっちりを受けなければならないのは、新聞・テレビなどのこれまでの情けない体たらく。報道関係者自身の命取りになる法案成立への暴走をここまで許してきた罪は大きい。
 実は原発事故勃発の夏、あまりにバカらしい記事満載の新聞に完全に嫌気が差してそれまで一回も途切らせたことのない新聞購読を止めた。しかしそれは完全に止めたわけではなく、ほとぼりが冷めたら(?)また購読するつもりだった。ところがそのころからか、私の読んでいた新聞のいわゆるネット版会員制が本格始動した(どうか他の新聞諸子よ、真似しないでおくれ!)。私がときどき読むスペインの新聞にはこうした動きは全く見られない。他の商売ならともかく、社会の「公器」たるべき新聞にとって完全な自己矛盾のはずのこの仕掛けについては、これまでも批判してきたので繰り返さないが、私には特定秘密保護法案と地続きの愚挙としか思えない。
 なに全然違う? そうかな、両者の径庭はさほど無いと思うよ。つまり秘密に近づくには007ばりの術策が必要であり、記事にアクセスするにはなにがしかの料金が必要であるとの違いだけで、知りたいものが隠されていることに変わりがないから。でもやっぱし違う? でも私だけのケースかも知れないが、会員制にすることによって、大事な(?)顧客を一人失ったわけだ。いずれにせよ、おいどんにとって(何で鹿児島弁?)見せたくないものを無理に見る気は無いがな(「がな」は願望の接尾辞とちゃいます、単なる方言どすえ)。
 最後に自棄(やけ)のやん八の、それも出来損ないの即席戯れ歌一つ

   

「国家」という高級玩具弄ぶ、ほらそこのガキ、
「戦争を知らぬ子供たち」、てめえらの父さん爺さんたちゃ
そんな風にして愚から戦争をおっぱじめた
度胸のないガキども、もっと丹田に力を入れろ
落ち着けー、どうってこたねーから

どの国の政治家もいずれそろってアホばかり
度胸も無いのにチキンレース
でもてめえらの火遊びから
とんだとばっちりを受けるの、おいらたち
落ち着けー、どうってこたねえから

ともかくよー、原発作りてーなら
てめえたち、原発側で暮らすべー
ともかくよー、戦争したいなら
てめえたち、鉄砲担いで最前線へ
落ち着けー、どうってこたねえから

さあさ踊りましょ、輪になって(あゝしんど)
さあさ踊りましょ、アホ音頭(ばっかみたい!)

―――舞台暗転―――

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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それ見たことか! への2件のフィードバック

  1. 阿部修義 のコメント:

     美子奥様、古希お誕生日おめでとうございます。奥様のご健康を心からお祈り申し上げます。                      2013年12月8日

     先生の「戯れ歌」の中の「どうってこたねえから」は金芝河(キム・ジハ)氏の詩の一節から引用されたものと私は解釈しました。『スペイン精神史の森の中で』の「アメリコ・カストロに向かって」の中で先生はこう言われています。 

     「韓国の現代詩人金芝河が、三島由紀夫の自刃に抗議して書いた詩の一節が、ここ数年来私の導きの糸となっている。(中略)三島の詩が含んでいるあらゆる意味、政治的なものであれ、芸術的なものであれ、いっさいの社会的な意味に対して反対しつつ書いた『アジュッカリ神風』という詩の冒頭の言葉がそれである。

     どうってこたあねえよ
     朝鮮野郎の血を吸って咲く菊の花さ
     かっぱらっていった鉄の器を溶かして鍛えあげた日本刀さ

     この『どうってこたあねえよ』という言葉によって、伝統的な日本文化の数々がものの見事に相対化される。(中略)ここには長い時の経過のうちに積もりつもった付加価値をこそぎ落として、その上ですべてを捉え直そうとの過激な、しかしぎりぎりの自己定位の覚悟が表現されている、と見たい。伝統とは、学問とは、歴史とは何なのだろうか。もちろんこのようにすべてを白紙に還元し、絶対零度の地点に立つことは、すべての価値をただ否定するだけではない。言うなればそれはオルテガの言う『戦術的退却』なのだ。すべてを裸の目で見ることによって、真に価値あるものを捉え直すための否定である」

     自民党政権の慢心は右傾化から独裁政権の臭いを私は感じます。しかし、今はどうすることも出来ませんが、徐氏の言われた「冬の時代」を私は先生と同じようにオルテガの言う「戦術的退却」として冷静に受け止めて好転する時機を注視していこうと思います。ふと、ヒルティが『幸福論』でこんなことを言ってたのを思い出しました。

     「社会的に健全というのは、ただ独立的な、自分自身のためにはもはや何物も欲せず、かつ求めぬ人だけが、初めてさまざまの人間や人間の状態を、神の使命にかなうような客観性において理解することができる」

  2. 上出勝 のコメント:

    佐々木先生

    森さんを担当させた理由として私が推測しているのは次の点です。
     ①弁護士であること
      弁護士が言うのだからそんなに無茶苦茶な法律で  はないだろうと「思わせること」。
     ②女性であること
      女性が言うのだから国民を弾圧するような法律で  はないだろうと「思わせること」。
     ③福島選出であること
      この法律にもっとも市民的レベルで反発している  福島県民に対して、福島出身であなたがたが選ん  だ人が福島県民を裏切るような法律をつくるはず  がないだろうと「思わせること」。

    要するに先生のおっしゃる「ソフト」路線だろうと思います。1年生議員ながら消費者問題担当相に抜擢したのもそういうことだろうと思います。

    森さんは私が前に所属していた弁護士会の消費者問題委員会の責任者をしており、2、3度顔を合わせたことがあります。その頃からなんかエラソーにしていました。消費者問題には詳しいでしょうが、おそらく刑事事件はあまりやっていないと思います。
    谷垣さんも弁護士ですが、二世ですぐ政治家になったので、刑事事件どころから一般の事件もあまりやっていないだろうと思います。
    公明党の山口さんも弁護士ですが、やはり刑事事件はあまりやっていないだろうと思います。

    刑事事件に多少とも熱心な弁護士はおそらくほとんどの人がこの法律に反対だろうと思います。現在でも冤罪事件は頻発していますが、この法律が適用されればさらに冤罪事件が増えるであろうことは明らかだからです。

    政府が次に狙っているのは、刑事訴訟手続で司法取引を導入することと通信傍受方の対象の拡大です。現在法制審議会の特別法部会で審議されています。
    司法取引は刑を減軽することで共犯者の名前を自白させること等を目的とするものです。秘密を漏らした公務員が重罰を恐れて情報を漏らした相手の名前を出したり、無関係の者を巻き込むようなことがおきるでしょう。
    さらに令状なしで盗聴できる対象が拡大することができればもっとおそろしい事態となるでしょう。

    昨年覚せい剤密輸入罪で一審無期懲役の被告人が控訴審で無罪となった判決があり、私は控訴審の弁護人を務めたのですが、共犯者が捜査官と司法取引を条件に被告人の名前を出したのですが、控訴審では司法取引があったことを裏付ける証拠が検察から出てきて、高裁は司法取引があったとして、共犯者の供述が信用できないとして逆転無罪としたものです。
    この司法取引を制度として導入すればそれ自体が合法となりますから、導入されていればこの事件で無罪判決はなかったろうと思います。また、控訴審になって被告人に有利な証拠が出てきたのですが、今後は検事が特定秘密に指定してくれと言えば「出さないこと」が合法化されるでしょう。

    メディアは知る権利(憲法21条)のことばかり言いますが、適正手続の保障(憲法31条)も危うくなります。
    また、行政訴訟や公害事件・薬害事件等で国を訴えるような裁判でも国に不利な証拠は「秘密」だとして、開示されないことになるでしょう。
    取調べの可視化についても審議されていますが、法務省案は捜査官の裁量を認めるとか極めて限定的なものとするようなものです。
    仮に秘密保護法での取調べで録画しても、その中身事態が「秘密」になるでしょうから、この種の事件で取調べの録画は意味がありません。

    知る権利だけではなく、一般市民にも影響がある法律なんですが、メディアは無自覚です。
    もっとも、メディアにはあまり期待はできません。特に社屋完成式典に総理大臣を招待するような新聞社に期待できるわけがありません。彼らが本気で反対しているとは到底思えません。

    ただ、私はぜんぜん諦めていません。政権を変えて(福島のみなさんは森さんを落としてください)、廃案にすればいいだけの話ですから。
    一昨日は私は夜10時過ぎまで国会前にいましたが、1万5000人が集まりました。若い人が目につきました。
    昨日は渋谷で集会とデモがあり、こちらも若い人が大勢いました。いろいろ趣向をこらして音楽に合わせて踊ったり、なかなか楽しかったですよ。私たちにはない発想が若い人たちにはあります。期待できます。

    昨日のデモで一番印象に残ったのは、年配の人が白地にピンクのハートマークの旗を持っていたこと。
    日の丸のパロディでしょうが、あるべき日本のイメージを一目で図案化したようで嬉しかったですね。

    もう一つ。吉永小百合様がこの法案に反対する意見を出したこと、これも嬉しいですね。

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