連日STAPという字が新聞紙上を賑わしている。そのスタップ細胞とやらがどんなものなのか、それがどういう意味で画期的なのか、正直言って逐次報道を追っていたわけではないから詳しくは知らない。それでもなんとなく分かったのは、この新しい細胞が生命科学だか医学の進歩に多大の貢献をなすもの、もしかすると次のノーベル賞にも相当するほどの業績ではないか、といった程度のことである。
しかし正直言ってアホらしい騒動だなーと思っている。そう言うと、君は科学の進歩にイチャモンをつける気か、と大向こうからの罵声が聞こえてきそうだ。でも臆せず話を続ける。いったい科学の進歩とは何だろう? たとえば医学の分野でのジェンナーの種痘法の発見とか野口英世の黄熱病の研究とか(ちょっと古すぎるか)、これまで医学が人類のために多大の貢献をしてきたことは素直に認める。
でも今回のスタップ細胞とか辺りまで来ると、もういいんじゃない、それよりかこれまでやってきたことをもっと安全なものにするとか、高齢化社会に対応する医療制度の見直しとか、もっと他に力を入れるべきことがあるんじゃない、と言いたくもなる。つまり正確な言い方は知らないけれど、先端科学・実験科学(?)よりもっと人とお金をつぎ込むべきことがあるんじゃないの、と考えてしまうのだ。
今回のリケンとかいうものもおそらく莫大な資金で経営されている巨大組織だろうと推測する、大層な設備とたくさんの研究員、そしてそれらを統括するより上位の組織。おそらくあの可愛いい顔をしたオボカタさんとかいう研究員も大学を出てからすぐ研究所に入り、それからこの道一筋、実験に次ぐ実験。どういう部局かは知らないけれど、上からは早く成果を出せ、そして同業者同士の先人争いの日々、それら研究の成果がいつかは応用される病人とか患者とか(あ、同じことか)との一切の接触も無しに、数式と顕微鏡とのにらめっこ。
例の遺伝子組み換えがどこまで応用されているのか知る気もないが、どうせどこかの巨大産業組織が莫大な利益を既に得ているのであろう。でも一方で、地球のどこかでは相変わらず大勢の人間が飢餓戦線をさまよっている。
とここまで書いて三日ほど放っている。なんだか書くまでもないな、と途中で興味を失ってしまったのだ。いつかまた続けるかも知れないが、いまのところは尻切れトンボのままにしとこうっと。今日は聖週間の後半の始まり、つまり聖木曜日、最後の晩餐の記念日。愛たちは夜六時のミサに出かけていった。不信心なお爺ちゃんお婆ちゃんの代わりに祈ってきておくれ。
そんなとき、マドリードのアンヘラさんからメールがあり、今日は聖木曜だけど私は美子が好きだという相馬の民謡(先日そのCDを送ってやった)を大音響で聞いてるところ。ご近所さんはみな出かけてる(ミサに?じゃないかレジャーにかな)ので、迷惑にもなるまい、でも警察が聞きつけてやってきたら、もうどうしようもなく故郷恋しくて懐かしくて(むっ?、彼女の故郷は確かレオンのはず)、つい大きな音にしてしまいましたの、とかなんとか言い訳するつもり、なんて書いてきた。
マドリードのとある一角でから、相馬二遍返し、相馬流山、新相馬節だけならまだしも、あの馬鹿に調子のいい相馬盆歌が大音響で聞こえてきたら、そりゃー警察でなくともぶったまげるべさ。聖木曜に相馬盆歌、いいかも。
ところで今日の表題は中断した文章のタイトルだが、もちろんSTAPのAをOに替えたオヤジ・ギャグどす。
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※本文中の太字、朱書き、アンダーライン、マーカー等の処理はすべて、死後、息子によって為されたものです。
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人間にとっては、科学の進歩は確かに有難いものなんでしょう。しかし、原発や遺伝子組み換えなどは人類の幸福には必要ないと思います。やはり、大自然の摂理に合うという大前提を無視するような進歩は進歩ではなく、人間の慢心から生まれた障害物に過ぎないように私は感じます。小保方さんの研究分野は私には全くわかりませんが、彼女の真摯な研究に対する姿勢は素晴らしいと私は思います。実際にSTAP細胞が存在すれば将来の医療に多大な貢献をするんでしょう。寺田寅彦がこんなことを言ってます。
「科学者になるには、自然を恋人としなければならない。自然はやはりその恋人にのみ真心を打ち明けるものである」