今日もまた

ここ数日間、美子の介護方法の変化に対応することでなにかと忙しく、あっと言う間に一日が終っている。現在形にしたのは、まだとうぶん試行錯誤が続きそうだからだ。たとえば先日の「一難さって、…」に誤飲と書いたが、正しくは誤嚥と言うべきであったことなど(後に訂正)、要するに何から何まで新しい知見と体験が続いている。
 ミキサーでペイスト状(ゼリー状と書いたこともあるが、以後ペイスト状とする)の食べ物をつくることも意外と難しい。とろみ(スティック状に分包されたもの)を入れても、モノによってはどろどろになってしまう。もちろん、できたものの味が良くなければ食べてもくれない。できたものをミキサーから深さのある小皿に移すときも大匙でこそぎ落とすのに手間がかかる。それで昨日、百円ショップでフライパンなどを傷つけぬためのゴム製のへらを買ってきた。これでかなりきれいに浚うことができる。
 汚れたミキサーの中をスポンジで洗う時も、底にある鋭い四枚刃で手を切る可能性がある。そこでようやく気付いた、三分の一くらいところまで水を入れて、ミキサーを回転させることを二、三度繰り返せば内部がきれいになる、ということを。
 現在美子は治療薬に相当する薬は飲んでいないが、それでも毎日四種類の錠剤を飲ませている。ラシックスという利尿剤、中性脂肪を抑えるための小さなクレストール錠、ビフィジス菌を増やす「おなか活力」という錠剤3粒、それにアリナミンEXプラス2錠である。前の二つはクリニックから処方されるもの、後の二つは私も飲んでいる市販のもの。
 さて新たな問題は、その飲ませ方である。これまでのように固形の食べ物に紛れ込ませることができなくなった。一昨日、錠剤を前歯で噛んだせいではなかったが、食事の後、ふと気がつくと、最近透き間ができた二枚の前歯のうちの一枚が折れている。慌てて口の中を指で探ってみると(このとき注意しないと先日のように強く噛まれることがある)、幸い折れた歯が見つかった。偉い! 美子なにか異物を感じて飲み込まなかったのである。以前、スーパーなどのレジ係りから、奥様の笑顔は素敵ですね、と褒められたことが再三あり、いつ見ても美子は笑顔っぽい顔つきの時が多かったが、これからは少々滑稽な笑顔になり、とても残念。まっ、それもいいか、愛嬌があって。
 それにしてもなにか硬い錠剤をつぶす方法はないものか。そうだ、こういうときはアマゾン詣で。するとありました、小さな丸い容器に錠剤を入れ、蓋を回して粉末状にできるやつが。値段は1,700円とちょっと高めだが(後からよく調べたら1,200円でも買えたのに)、なかなか重宝である。それにしてもアリナミンは苦い錠剤なので、今朝からはアミノ酸とロイヤルゼリー入りの「即効元気」というチューブ入りのものなど他の栄養剤に換えることにした。
 という具合に学習したばかりのことを次々ご報告してもキリが無いので、最後に一つだけ重要な変化を書いておく。昨日から予定通り、午後一時に排便ケアを受けることになったが、ここに一つ問題が発生。というのは、一階居間(つい最近まで愛たちが使っていた部屋、嗚呼!)に、ケアマネージャーのOさんからお借りした折りたたみベッドを用意したが、それがヘルパーさん二人でもなかなか使いにくいことが分かったのである。つまり幅広で低いので、腰に負担がかかるそうなのだ。
 それで介護用品店のIさんに相談したところ、幅が狭く高さもある電動式のものだと新品で20万円近くになり、中古でも8万すると言う。既に大きなベッドを介護保険で借りており、同一患者に二つは適用できないので購入するか自費で借りるしかない。どちらにしても必要なので、その中古のものを注文することにした。
 しかし週に三回、計2時間ちょっとのために8万円はちと痛い。そこで、ここに再度アマゾンの登場である。収納式電動リクライニングベッド 8838というやつで、配達料無料で3万1,622円というのが見つかり、さっそく注文した。何よりもいいのは、中央部を上に引っ張るだけで簡単に折りたたむことができ、部屋の隅に置けば普段は居間を通常通り使えるということだ。アマゾンでいいのはユーザーからの評価が説明入りでなされていることで、これによると高さもよし、ヘルパーさんの腰にも負担がかからぬなどかなりの高評価。先日のリクライニングチェアーの事故のこともあるので堅牢性が気になったが、これも全く問題なさそうだ。
 そして最後の最後で同じくアマゾンがらみの話。実は美子の食欲減退は、身体をまったく動かさないこと、特に肩こりからくるのではないかと思っていたところ、昨夜田村市のSさんからいまNHKの「ためしてガッテン」を見てごらん、という親切な電話があり、慌てて点けてみると、喉の運動をすることによって唾液の分泌が活発になるといった内容の放送をやっていた。やっぱり!
 そこで再度アマゾン詣で。するとありました、Panasonic ハンディマッサージャー ツカミタタキという格好の代物が。家にも昔から使っているナショナル(昔懐かしい呼び名!)の肩たたき器があるが、今度のものはツカミが入るという優れもの。ユーザーの感想の中には、女性にはちょっと重過ぎるというのがあったが、なに私が美子に使うぶんには問題なかろう。一月前ほど、背中や脚に使うマッサージクッションを買ったので、これで全身動かなくなった美子の血液循環の対策は万全(?)。
 なんだか今日はアマゾンの宣伝に終始したきらいがあって恥ずかしいが、これも右の守口さんのコメントにおだてられて、つい調子に乗りすぎたため。ついでに言いますと、貞房を兄貴と呼んでくれるありがたーいお方は、もう一人ピアニストの菅さんがいる。つまり菅さんと守口さんは義兄弟ということになる。また、恥ずかしがるのでお名前は明かさないが、貞房を父と呼んでくれる方もいる。残り少ない人生、貞房死すの知らせで涙してくれる舎弟や娘が増えて「義(偽ではありません)兄弟の輪」がさらに広がってほしいというのが貞房の大それた、身のほど知らぬ願いである。
 さて今日も孤独な太鼓の乱れ打ちでございました。ではまた。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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今日もまた への7件のフィードバック

  1. 阿部修義 のコメント:

     先生がモノディアロゴスを執筆されていることに、多くの読者がどれだけ励まされていることか。私はいつもそう思っています。美子奥様に対する介護の姿勢が、先生という人間のすべてを映し出していると私は思います。美子奥様のご体調の日々の微妙な変化を細かく把握されていることは介護をする場合極めて大切です。これからも介護の貴重なお話を聞かせてください。

  2. 守口 毅 のコメント:

    佐々木兄いのコメント、ふむふむと読ませてもらっています。
    錠剤を呑みこむ課題、残っている歯の処置・・似たような課題にこちらも日々悩んでいます。私の母はかみさんに言わせると血管性認知症ということらしく、しっかりしている部分と大混乱の部分と、マダラに生じてきます。寝ている時間が多くなるので、一番の混乱はいまが朝なのか昼・夜なのか、曜日の判断も出来ていません。ですからしっかり仕分けして用意している薬の曜日カレンダーは、手当たりしだいの虫喰いになってしまいます。そろそろ一回ごとに手渡しするしかないな、と考えています。それから、お酒です。お猪口2~3杯ですがおふくろは夕食のとき日本酒を楽しみにしています。それがごく最近ですが、私が外出している間にひとりチビチビやりはじめているらしい。昨日なんか帰ってみるとほっぺただけじゃなく額まで赤いじゃありませんか。いよいよこれも手に届かないところにおいて食事の時に用意してあげるようにしなくちゃならんかな、など考えあぐねています。怒ってもしょうがないし、毎日、問題発生に直面しそれの対策や改善策を講じていくちゅうことですね。
    兄い~。兄いの義兄弟の中に加えてもらったのはうれしいですね。ピアニストの菅さんってどんな方でしょうか。僕のほうは歌やViolinで、いつかご一緒出来たらこんな嬉しいことはありません。こういう夢はいいなあ。

  3. ueno emico のコメント:

    遅かりし由良之助・・・
    買ってしまわれた後のようなので今更ですが、処方薬なら袋などに入ったままスプーンの背で押しつぶせば砕けましたのに。拙宅には乳鉢がたくさんあったので、最初はそれをつかっておりました。しかし、ちと力がいりますが、硬いテーブルなどに置きスプーンの背でゴリゴリするのがいっとう早いように思います。
    食べ物をペースト状にするには、棒状の攪拌機も便利です。バーミックスとかいうものの廉価版がたくさんあって、私はブラウンというメーカーのものをつかっていますが、さらにお安いものもあります。経験上ミキサーよりも後片付けが楽です。

  4. アバター画像 fuji-teivo のコメント:

    ueno emicoさま
     御挨拶抜きでとつぜんのご教示ありがとうございます。硬い錠剤を砕くことについてはどうもあなたより私は非力らしく、固い錠剤をスプーンの背で砕くだけの力がないようです。先日紹介したものは直径3センチほどの、内部がすり鉢状になっているもので、薬が飛び散らないし、きれいに粉末にしてくれ、扱いが簡単です。一度試してみてください。
     後段の棒状の攪拌器はなかなか良さそうですね、探してみます。
     それからもうご存知かも知れませんが、スーパーのベビー用品コーナーで、9ヶ月の乳幼児向けの、20種類ほどいろんな料理が小さなパックに入っているものを見つけて、それと白がゆと組み合わせて重宝してます。

  5. ueno emico のコメント:

    薬のつぶし方について説明が舌足らずでした。
    「スプーンのくぼみに親指をあて、立った姿勢で体重を親指にかける」を、補足いたします。

  6. ueno emico のコメント:

    ご挨拶抜きの突然の書き込みで失礼いたしました。以前に書き込んだことがあったのでよしとしてしまいました。独りよがりで申し訳ありませんでした。

  7. アバター画像 fuji-teivo のコメント:

    ueno emicoさま
     以前おいでになった方であること、すっかり失念していました。そうでしたら、私の方がたいへんな失礼をしたことになります。どうぞお許しください。これからも介護経験の先輩としていろいろご教示下されば幸いです。よろしく。

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