お久しぶり

「ずいぶんのご無沙汰だったね。先月の十八日からだからもう二週間のご無沙汰」
「これまでの最長記録を更新したね。でもそれ体調を崩していたわけでも、何か問題が起こったからでもなく…」
「そう、簡単に言えば『モノディアロゴスXIII』の印刷製本にかかりきりになっていたから」
「良く分かったね。今日までで90冊作ったよ。でもいつものことだが、一部の人には喜ばれたけど、大多数の人からは反応なし。へこたれそうになるときに決まって思い出すのは…」
「小川国夫さんが『アポロンの島』を自費出版したとき、そのころ奄美にいた島尾敏雄さん一人が注文してきたっていう話だろ」
「…まっ、めげてなぞいないがね。お百姓さんが種播きから収穫の秋を迎えて刈り入れ、脱穀、さらに梱包してお客さんに届けるまで、すべて手作業でやるのと同じこと。商業出版社から出さずに(出せずに)こうして一つの仕事を完成まで手間暇かけるのは、むしろ誇りに思ってる」
「ちょっと無理したね。それにしてもその間、世間では相も変わらず珍妙なことが起こってるね」
「なかでも滑稽を通り越してグレーツなのは」
「分かった! 安倍総理の施政方針演説に与党議員が総立ちで拍手したことだろ」
「くわしく画像見たわけじゃないけど、その時総理も自ら拍手してたんじゃない。こうなると思い出すのは」
「分かった! 北朝鮮の金正恩。ほんとほんと。総理も総理だが、もっと滑稽なのは与党議員の(公明党の議員もだったかな?)志操の低さ。北朝鮮に類例を求めるまでもなく、我が国のかつての……」
「どうったの、また物忘れ? 本当にこのごろ物忘れが加速してるね」
「思い出した! 大政翼賛会だ!」
「本当にキナ臭い世の中になってきたね。こんな珍現象を徹底的に批判すべきマスコミの、まあなんと及び腰で意気地がないこと」
「二週間ぶりの登場だ、憎まれ口はこの辺でやめとこ」

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学など他大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、死去(享年79)
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お久しぶり への1件のコメント

  1. 佐々木あずさ のコメント:

    こんなコメントをつけて、FBにアップしました。
    以下、引用です。

    佐々木孝さん(帯広出身、南相馬在住のスペイン思想家)は、ご自分のエッセーなどをプリントアウトし、紙を一枚一枚手織りし、奥付、表紙をつけて製作しておられます。何と根気のいることでしょう!でも、今回のエッセーを拝読し、その営みはお百姓さんの尊い仕事と同じだと知りました。種もみ作りから完成までの一つ一つの工程を、お百姓さんが責任をもって携わる、まさに汗の結晶。そして、この「モノディアロゴス」も佐々木先生の汗の結晶。北海道の十勝ではちょっとブームになってきました。若い方は20代から、「最近小さい字は辛いんだよな~」とおっしゃる70代の農家の方まで幅広い読者層です。

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