「おや、久しぶりだね、こうして君と話しするのは。さてはまた馬鹿話したくなったな」
「ピンポーン! 話はほかでもないが、今回孝と美子の金婚記念に、少し恥ずかしかったけど、美子が喜ぶと思って50年前の結婚式の写真をアップしたろ」
「それでどうした? 恥知らず、と非難ごうごう?」
「いやそれはなかったけど、写真を見た或る人から思わぬ褒め言葉をもらった」
「だれが? 美子なら当然かも知れんが、まさか君が?」
「君も覚えているだろうが50年よりもっと前、つまり大学4年生のときに、、、」
「容貌に全く自信の無かった君に下級生からもらった最大級の賛辞だろ、(※もし調べたい方がいらっしゃいましたら「「紡ぐ」ということ」と「勘違いの連鎖」参照のこと)」
「そう今回、似たような賛辞があったんさ。でも今度はフィリップじゃなくエディー」
「エディー? エディー・マーフィ?」
「違うよ、マーフィーとは肌の色がだいぶ違うし、芸風が違う」
「君いつから芸人になったん?」
「、、、ともかくマーフィーじゃなくエディー・フィッシャーさ」
「だれ、それ? 名前は聞いたことがあるけど、どんな人か知らないなあ」
「実は僕もそう。で、急いでネットで調べた。すると「オー・マイ・パパ」など唄った歌手で、それでどんな男か顔写真を見た。もちろん僕に似てないけどなかなかいい男。で、その時突然気が付いたんだ、その褒め言葉をメールしてきたNさんの説明を。つまりNさんはこう書いてきた、<先生 イケメンですね。かつて学生たちが先生がハリウットスターのエディ・フィッシャーに 似ていると憧れたのがよくわかりましたよ。私が若かりし頃、映画館でエディ・フィッシャー主演の『花咲ける騎士道』を見て憧れたことを思い出しました。>」
「そうなんだよ、Nさんジュラール・フィリップとエディー・フィッシャーを取り違えたんだよ」
「するってーと」
「そう、今回新たに私が似ているという映画俳優がもう一人いたんだ、というのはとんだ糠喜びで、実はNさん、以前のうろ覚えの私のブログを話題にしただけなんだ。つまり似ていると思ったのはあくまでフィリップだけ」
「まあいいじゃないか、少し記憶違いだったけど、孝の若かりし頃の写真を見てNさんが贔屓スターに似てる、と錯覚したんだから、喜ばなくちゃ」
「まっそういうことにしとくか。自分のことだけ話題にしたら美子がっかりするかも知れないので、一つだけ思い出したことを言うと、むかし家族でスペイン旅行をしたことがあったろう? 行きか、帰りかに寄ったローマの或るレストランで給仕の小父ちゃんがリップ・サービスで、美子のこと、わーお美人ですな、まさに日本のジーナ・ロロブリジーダでんな、と言った」
「でんな、とは言わなかったと思うよ」
「いいでないの、ローマ方言と思ってくれよ。となると孝と美子はジュラール・フィリップとジーナ・ロロブリジーダが夫婦になったようなもんか」
「いいのかい、そんなこと言って」
「いいのいいの、現在の二人のこと考えたらだれでも大目に見てくれるさ。むかし美子の認知症発症のことを知った或る人に言われたよ。君たちあんまり仲がいいから運命の神に妬まれたんだよ、って。それにこれ以上いじめる神様んていないさ。かえって同情してくれるんでねえの」
「ところでジーナさん、、、」
「ロロブリジーダさん?」
「彼女、91歳でまだお元気らしい」
「だったら日本のロロブリジーダさんもそのくらい長生きしなくっちゃね」
「そういうこと」
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※本文中の太字、朱書き、アンダーライン、マーカー等の処理はすべて、死後、息子によって為されたものです。
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