豆本の最終形?

累計日本語版2,700冊、スペイン語版400冊になったところで、ようやく気付いた。平和菌の増殖法を加えなきゃ、と。これまでもかなり作ってから「解説」を加えることを思い付いたが、覚醒はいつも遅れてやってくる。歌詞だけの本だと何のことか分からないので、それまでは「東京新聞」の佐藤直子記者が書いた記事をコピーして添えたりしていたが、そうだ解説を加えればそんな手間が省ける、と遅まきながら気づいたのだ。
 今度も、平和菌をどうすれば増殖できるかを説明しなければ、豆本もらっても戸惑うだろうな、とようやく気付いた。それで昨年いや一昨年だったか(もう忘れている)渋沢栄一記念財団機関誌「青淵」のために書いた文章の一部を要約すればいい、と夕食後急遽編集して豆本サイズに印刷してみた。これで6ページ増えるから合計38ページと少し分厚い、いやそれほどでもない厚さになった。ここで改めてご披露しよう。



平和菌増殖のための三つの要諦 

  1. 魂の重心を常に低く保つこと
    日本はいま地に足がつかぬままの漂流状態(一億総ドリフターズ化)にある。個人は言うに及ばず、政界、マスコミ、そして悲しいことに教育界までもが浮足立っている。
    名匠小津安二郎が描いた戦後の貧しい日本人がなぜあのように美しく気品があったか。それは彼が三脚の脚を切らせてローアングルで撮ったからだ。いずれにせよ重心を低くすることによってたやすくは流されず、事の実相が見えてくることは確実である。

  2. すべての事象を「生成の状態」に戻して見つめ直すこと
    つまり人間の生死は言うに及ばず、すべてものには始まりがあり、そして終わりがあるという冷厳な事実を確認することである。
    例えば近代国家はたかだかここ数世紀の過渡的なもの、このままの形で永遠に続くはずもない。もちろん領土問題などいくら国際司法裁判所に訴え出ても、いつを起点にするかで全く異なる裁定が下るはずだ。なのに日本だけでなく世界中の国々が時代遅れの国家像から抜け出せないまま愚かな紛争を繰り返している。

  3. すべての事象をそれ本来の正しい遠近法に引き据えること
    とりわけ常に等身大であるべき人間を絶対に数字や記号に還元してはならない。いまの教育は児童・生徒をひたすら成績という数字に収斂させ、そして行政は市民を御しやすいナンバーにしようとしている。
    言うまでもなく戦争とはまさに相手国を、かつての「鬼畜米英」のようにただただ憎悪の対象に、そして人間を点(標的)にまで極小化すること以外の何物でもない。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学など他大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、死去(享年79)
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豆本の最終形? への1件のコメント

  1. 阿部修義 のコメント:

     五六年前だったと思いますが、北区西ヶ原にある渋沢史料館に散歩を兼ねて出かけたことを思い出しました。そこの機関誌「青淵(せいえん)」の一昨年の10月号に先生の文章(平和菌増殖のための三つの要諦)が掲載されていたことを初めて知り、そこで購入し、拝読した『論語と算盤』の内容に通じるものを私は感じます。

     「富を成す根源は何かといえば、仁義道徳、正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することはできぬ。論語(義・倫理)とそろばんは両立する。(渋沢栄一)」

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