資料館の寺田氏に、今日の午後まで講座のレジュメを送付する、と約束していたので、とりあえず以下のようなものを作ってみた。これで扱うべきテーマを網羅したとはけっして言えないが、少なくとも現在の私がなんとか究明したい問題点はならべてみた。このとおりに講義が進むはずもないが、とりあえずの里程標は設置した。進路変更とか細部の修正ならともかく、羊頭狗肉はつとめて避けたいとは思っている。
「今年度の主要テーマ 「文学と風土性の問題」
※なお本年度講座で対象とする作家は、従来の埴谷雄高と島尾敏雄のほかに、彼らと深い交流のあった小川国夫を加えます。
- はじめに 埴谷雄高と島尾敏雄の誕生とその幼年期、台湾と相馬
- 習作時代 才能か資質か
- 戦後文学の中の位置 左翼体験と戦争体験
- なぜ書くか(人はいつ作家となるか)彼ら自身の証言
- いかに書くか 方法としての「夢」 埴谷・島尾・小川それぞれの特徴
- 外国文学からの影響 埴谷とドストエフスキー 島尾と中国文学
- 時代と論争 スターリンと「ちっぽけなアヴァンチュール」
- 代表作誕生の道筋Ⅰ 『死霊』の場合
- 代表作誕生の道筋Ⅱ 『死の棘』の場合
- 旅の思想 島尾敏雄とロシア・ポーランド 小川国夫と地中海世界
- ? 文学と風土性 島尾敏雄のヤポネシア論と“東北” 小川国夫と “故郷”
これまでと大きく違うのは、講座の主要回転軸の一つに小川国夫を取り入れたことであろう。戦後文学あるいは現代日本文学の流れの中で、埴谷雄高、島尾敏雄、そして小川国夫という三人の文学者の出会いと相互影響は、けだし奇跡的なと言ったら少し大袈裟であろうが、しかし稀有な、そして豊穣な文学的・思想的な渦を、埴谷流に言えば坩堝あるいは渦動を形成したことは間違いない。これを戦後文学あるいは現代日本文学のトリロジー(Trilogy)(つまり三つのロゴス< 語り>のぶつかり合いという意味で)と名づけてもいいであろう。