ムートンのミトン

今朝も愛たちがばっぱさん訪問をしてくれたので、午後、美子と夜の森公園をゆっくり散歩した。朝方、降った雪はあらかた消えていたが、寒いことは寒い。しかし今日の美子はばっちり(とはまた古い流行語だこと!)寒さ対策はできている。先日の五本指の手袋のことを読んだMさんが、昨日ムートンのミトンを送ってくださったからだ。
 親指と他の四本指との間だけ分離している手袋をミトンと言うことを初めて知った。mitten と書くらしい。ブリタニカ国際大百科事典によると、「指ごとに分離した手袋(グラブ glave)の原型とされ、古代から武装や労働用として使われた。指なしの長手袋をさすこともある」と出ている。さらに調べると、mitten は14世紀、古フランス語 mite、すなわち「母指とその他の指を2等分にした」が原義らしい。「ラテン語 medius (=中間の) にさかのぼれる語」とも書かれている。
 ついでに言うなら、「指なしの長手袋」とは、貴婦人などが身につけていた肘辺りまでくる白い手袋のことだろうか。美子がいただいたミトンの素材はムートンとまるで語呂合わせにみたいだが、そのムートン(mouton)とはフランス語で、主にメリノー種の原皮に加工処理を施して染色、毛足を刈り込んで、ビーバーやヌートリアに似せてつくられる、とある。なるほど。しかし今度は、ヌートリアが分からない。調べてみると、「齧歯(げっし)目カプロミス科の哺乳類。体長40-60センチ、尾長20-40センチ。体つきはビーバーに、尾はネズミに似て、後ろ足に水かきをもち、水辺にすむ。草食性。南アメリカに分布し、日本では軍用毛皮獣として輸入されたものが野生化。海狸ねずみ、沼狸(しょうり)よも言う」。
 なるほどね。当たり前のことだけど、この世には私の知らないことがまだまだいっぱいありそうだ。なーんて書きながら、じつは昨夜言ったことをまだ調べていないので、必死に場つなぎをしているわけだ。場つなぎ?そんな言葉は辞書には載っていないが、あってもおかしくないいい表現だけどな。
 つまり『ドン・キホーテ』と『阿Q正伝』の不思議な符合のことだが、手元のいくつかの魯迅研究書を見てみたが、どうも見当たらないのである。それで窮余の一策で、ヤホーいやヤフーで(下手な小芝居をしてしまいました)「阿Q正伝、ドン・キホーテ 中野美代子」で検索したら、なんと昨夜の私のブログが真っ先に出てしまいました。するってーと、この問題になんとか決着をつける義務ちゅーか責任があるということでんな。
 ところで、ムートンのミトン、美子が脱いでしまってもどこまでも付いてくるように、さっそく両手を伸ばしたくらいの長さの紐をつけてやった。車から降りるとき、やっぱり彼女、片方を脱いでました。でも紐のおかげで、失くさないですみました。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学など他大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、死去(享年79)
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