昼食を食べていたら、バッパさんが通りすがりにこう言う「美子さん、紅葉がきれいだから、あとから車で行ってみっぺ」。間髪入れずに私が間に入る。「紅葉って、昨日仙台の博兄と見てきたべ」。するとバッパさん、「いや、帰りがけに昨日の毛布見てーんだ」
そこで遅ればせながら気が付く、そうだ、昨日からずーっと毛布のことがあきらめきれなかったらしい。「また子供みてーなこと言うな。家には毛布など腐るほどあっと」。「いやー、実際に見てみて、二人で駄目だと言うならあきらめっぺ。だけんちょも、あの黄色い毛布、暖かくて気持ちよさそうなんだ」。「ぜったい駄目だど」。こちらはなぜ買いたくなったか、ちゃーんとお見通しなのだ。つまり毛布そのものが気に入ったというより、一万五千円のものが五千円に値引きされていたからこそ欲しくなったのだ、と。
二階に上がってきてから妻が言う。「あんなに欲しがってんだから買ってあげたら」
バッパさん、昨日兄と二人で紅葉を見に出かけたついでにスーパーに寄り、そこで見た一枚の毛布がどうしても欲しくなったらしい。でもさすがの兄も、家にたくさんあるはずだからと止めたようだ。しかしプラモデルがどうしても欲しくなった子供のように、あれ以来毛布のことがどうしても頭から離れなかったのだ。
とうとう根負けして、連れて行ってやることにした。ついでにバッパさんのホマチ (小遣い) から買うのではなく、こちらからのプレゼントにすることにした。それを聞いたときのあの嬉しそうな顔。ほんと、完全にガキ状態。「これで思い残すことねー。明日死んでもえーど」だって。
スーパーからの帰り、車の後部座席で真剣な顔でこう言う。「ここまで来たんだから、冥土の土産にもう一度紅葉見せに連れてけ」「だって昨日見たんだべ。それに冥土の土産なんて殺し文句しょっちゅう使うなよ。百歳以上生きるんだべ。ともかく節度を守れー」
でもこの糞エネルギーには驚かされる。かといって冥土の土産なんて言葉に踊らされていたら、それこそこっちの身が持たない。くわばらくわばら。
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※本文中の太字、朱書き、アンダーライン、マーカー等の処理はすべて、死後、息子によって為されたものです。
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