夕食後だから、腹を立てると消化に悪いのだが、今猛烈に腹を立てている。『福島民報』の「サロン」というコラムに、今日の最終回を入れて六回ほど短い文章を書いてきたが、毎回掲載紙をみるのが怖かった。つまり毎回、少しずつ文章がいじられていたからである。もっと正確に言えば、たとえば接続詞などが勝手に省略され、元の文意と微妙に違っているのだ。抗議するには誠に些細なこととも考えられるので、その度に、まっいいか、今回かぎりのつきあいかも知れないから、波風立てるにも及ぶまい、と抑えてきた。
 しかし今回は、ファックスで原稿を送る際、これ以上不快な思いはしたくないので、「文字数制限以外の理由で文章を変える際は、一言ご相談ください。今回はそのためもあって一行減らしましたのでよろしく」と添え書きしておいたのである。さて今朝読んだときには、またもや一部の言葉が省略されていたことに気づいたが、文意そのものにさして変化はないので、いいや、これが最後だから、と忘れることにした。しかし、先ほど、夕食後、最後の段落を何気なく読み返し愕然とした。一部言葉が省略されてかなり文意が変わってしまっているのだ。その言葉をそのまま使ったとしても、スペース的には(嫌な表現だがちょっと便利)まだ余裕があるにもかかわらず。
 支局に電話すると、こちらでは分からぬので明日本社の係りから連絡させます、との素っ気無い返事。何が問題なのかどうも分からぬらしい。ともかく何十人かの執筆者のうちには文章を書きなれない人もいて、校正係りはまるで子供の作文を添削するような気持ちで文章をいじっているのかも知れないが、しかし投稿ならいざ知らず、依頼原稿に対する基本的な姿勢があまりにもお粗末である。むかし島尾敏雄が九州の地方紙に送った文章が勝手にいじられて、温厚な彼としてもさすがに我慢出来ずに抗議したことを思い出したが、今回はそれに比べると抗議するにも当たらないかな、と考えてしまうほどの微妙な改ざんなのだが、だからこそますます腹立たしいのだ。ましてや私は島尾敏雄のような温厚さは持ち合わせていないときている。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学など他大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、死去(享年79)
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